プロの捕手はまず「打者」のどこを見る?【里崎智也の里ズバッ! #02】
今季から野球解説者として各方面で活躍する里崎智也氏が、その経験に裏打ちされた自身の「捕手論」を語る新連載。第2回の今回は、“扇の要”として、野手では唯一、味方のほうを向いて守備に就く特異なポジションである、捕手ならではの「視点」に迫ります。
2015/05/12
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「構え」から見えてくる微妙な“違い”
前回は、キャッチャーが「リード」の前にするべき、プロとしての準備について書いた。今回は、そうした事前の準備を周到に行ったうえで、マスクを被る僕らが、相手バッターのどこを見ながら、ボールを受けているかについて書いてみたい。
「リードをするうえで、真っ先に注目するポイントはどこですか?」
そう訊かれたら、僕の場合はまず、打席に入った相手バッターの「構え」。その次に「タイミングの取り方」、そして「バットの出方」の順だと答える。
より具体的に言えば、足の踏み出し位置なども含めた「構え」全体を見て、「この構えで、外までバット届くんかな?」なんてことを最初に考え、次に「タイミングの取り方」を見て、「合っているか」「合っていないか」を見極め、さらに「バットの出方」次第で、「よし、今日のこの感じやったら、ちょっとアウトコースを攻めてみよか」という、最終的な判断を下す──。
こうした状況判断、配球の組み立てを、ピッチャーにサインを出すまでのほんのわずかな時間で瞬時に行いながら、前回も挙げた「計画」「実行」「反省」の3ステップを、積み重ねていくことが、僕が言うところの「リード」の本質というわけだ。
ちなみに、1軍の試合で場数を踏んで、対戦相手の情報がどんどんアップデートされていくと、素人眼にはわからないような体の開きや腕の下がり具合なども、バッターが打席に入った瞬間に「あれっ!? いつもと違うな」と気づけるようになってくる。
言葉で説明するのはなかなか難しいが、選手のもつ〝影〟のようなものが、本来あるべき位置にない──ということが、“違い”として、感じとれるようになるのである。
だからこそ、キャッチャーにとっては、1軍に定着して、トップレベルのバッターたちと対峙し続けることこそが、なによりの糧となる。
僕を含めたキャッチャー出身者の多くが、「いくらファームで試合数をこなしても、意味がない」といった趣旨のことをしばしば口にするのは、そうした“違い”の判別に不可欠な“試合勘”とも言うべき経験の蓄積や、情報のアップデートが、下にいたままでは到底望めないからに他ならない。