清宮幸太郎とは違う吉田輝星フィーバー。焦らず急かさず、一歩ずつプロの階段を【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#97】
公式発表、1306人。大勢の観客が固唾をのんで、吉田輝星の対外試合初登板を見守った。
2019/03/16
見ている側より勝負を楽しんでいた
試合はファイターズ・田中瑛斗、楽天・釜田佳直の両先発でスタート。まさか教育リーグで釜田を見ると思わなかったので、儲けた気分だ。試合展開はゲッツー崩れでファイターズ1点先制の後、特にヤマ場もなく淡々と進む。あ、そうそう、吉田侑樹が登板して、今年からひょっとして「じゃないほうの吉田」呼ばわりされちゃうのかなぁと余計な心配をした。がんばれ吉田侑!
吉田輝星が登板したのは7回表だった。ファイターズの4番手としてリリーフ登板。ブルペンから駆け出してきて、一瞬にして空気がピーンと張る。まずまずの拍手が起こった。「まずまず」がなぜかというと皆、一眼レフで、スマホ動画で、この歴史的なシーンを撮影するのに忙しかったからだ。腕組みしながら見ていたのは僕のようなおっさんくらいだろう。投球練習が始まるとフォトセッション状態だった。吉田輝星は気持ちが上ずっている。初々しいなぁ。見てるこっちまで肩に力が入る。
迎える打者は楽天のクリンアップ、3番ヒメネス、4番岩見雅紀、5番山下斐紹だ。なかなか面白いところでしょう。実戦登板の第1球は141キロのストレート、ヒメネスのバットが空を切る。このときの連続シャッター音、動画撮影のピンッという開始音、スタンド全体を包むざわざわ感がハンパなかった。なかなかあんな球場の雰囲気は経験できない。僕は知らない間に腕組みがほどけて、両ヒザをギュッと握りしめていた。
輝星は力んでいた。カンタンにヒメネスを追い込んだ後、球が抜けたり、手に引っかかったり、制球を乱す。ヒメネスを四球で歩かせ、ひとつ息をつく。マウンド姿は意外なほど小柄だ。「短躯(たんく)」という古い言い方を思い出した。小柄という意味だが、「タンク」という語感が戦車を連想させる。ギュッと中身の詰まった「短躯」から大砲みたいな球がホップして飛んでくる。指にかかったストレートはギューンという感じだ。最高に魅力ある。
無死1塁から六大学の強打者、岩見を空振り三振に取った。続く山下にはセンター前へ抜けるヒットを許して、1死1、2塁、迎える打者は交代出場の橋本到だった。巨人から移籍してきた好打者である。ここは見どころだった。ランナーをためた場面でどんなふるまいをするのか。そこまで球種はほとんどストレートだ。
それがストレートで押した。橋本はセカンドゴロで4-6-3のゲッツー。スタンド全体が安堵のため息に包まれる。僕自身がそうだけど、何か7回頭からずっと呼吸するのを忘れていたような緊張感だった。「息をのむ」とはこんな感じなんだなぁ。
「プロの試合とはこんな感じとわかった。すごく楽しかった」
試合後、本人のコメントはこうだった。見てる側より、マウンド上の若武者ははるかに落ち着いて、勝負を楽しんでいたらしい。初登板は1回無失点。すぐに次の登板がやって来る。急(せ)かす必要は何もない。一歩一歩、確かめながらプロの階段を上がっていけばいい。
※平日の教育リーグで観客が1000人を超えたのは鎌ケ谷史上初めてのことだそうだ。「DJチャス」が試合後、嬉しそうだった。
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