野村克也氏「高校野球のタイブレーク制は大反対」。野球本来の醍醐味が失われる危険性<再掲載>
野村克也氏が11日、虚血性心不全により84歳で死去した。現役時代は戦後初の三冠王(1965年)に輝き、引退後はヤクルトを3度の日本一に導いた名将。現代の野球観にも多大な影響を与えた唯一無二の存在だった。 また指導者としても、数多くの名選手を育て上げてきた手腕は、今なお求める声が大きい。“ノムさん”が日本野球の行く末を憂い生前に残した言葉には、未来につながる気づきが詰まっている。「未来のプロ野球選手を夢見る選手を教える指導者はどのような知識を備えるべきか、そしてどのような指導をすべきか」。2019年4月9日に同氏の著書「指導者のエゴが才能をダメにする ノムラの指導論」から一部抜粋で公開したインタビューを再掲載する。
2020/02/12
「タイブレークの練習そのものには意味がない」
先の100回大会の話で言えば、4校のうち1校は、タイブレークの練習を日頃から行っていたそうだ。だが、結果的にこの学校は負けてしまった。どうもその学校は「まずは1点をとってリードすること」に主眼を置いた攻撃をしていたようだが、この考え方も間違っている。
タイブレークになったら、先攻のチームは、「1点と言わず、できるだけ多くの点をとること」を重視し、後攻のチームは、「相手よりも1点でも多く得点をとること」をしなければ負けてしまう。当たり前のことではあるが、タイブレークの練習というのは、先攻、後攻のどちらを選択するかで攻撃のバリエーションが変わってくる。
つまり、先攻のチームが1点しかとっていなければ2点以上とればいいわけだし、5点とられたら6点以上とらなければ負けてしまう。そうなると走者を塁上にためて、攻めることで状況を打破するしか打つ手はない。
このようにタイブレークという制度は、ゼロの状態からチャンスを作るというプロセスが省かれてしまうことで、野球の醍醐味は失われてしまうのではないかと危惧している。
もちろん決まった以上はルールに対応していかなくてはならないのもまた事実だが、「タイブレークの練習そのものには意味がない」ということを、ここではあえて付け加えさせてもらいたい。
著者プロフィール
野村克也
1935年、京都府生まれ。峰山高校卒業後、1954年にテスト生として南海ホークス(現福岡ソフトバンクホークス)に入団。3年目でレギュラーに定着すると以降、球界を代表する捕手として活躍。70年には南海ホークスの選手兼任監督に就任し、73年にパ・リーグ優勝を果たす。78年、選手としてロッテオリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)に移籍。79年、西武ライオンズに移籍、翌80年に45歳で現役引退。27年間の現役生活では、三冠王1回、MVP5回、本塁打王9回、打点王7回、首位打者1回、ベストナイン19回。 三冠王は戦後初、通算657本塁打は歴代2位の記録。90年、ヤクルトスワローズの監督に就任後に低迷していたチームを再建し、98年までの在任期間中に4回のリーグ優勝(日本シリーズ優勝3回)を果たす。99年~2001年阪神タイガース監督。06年~09年、東北楽天ゴールデンイーグルス監督。著書に『野村ノート』(小学館)『野村の流儀』(ぴあ)など
書籍概要
『指導者のエゴが才能をダメにする ノムラの指導論』
定価:本体1600円+税
その教え方が、選手を潰す! 間違いだらけの野球観を捨て、『本物の野球』を学べ
アマチュア指導者へ贈る、選手指導入門編
野球競技人口が年々減少していく中、特に未来のプロ野球選手を育てる“指導者”が果たす役割は大きくなっている。選手一人一人の将来に向けて、勝ち負けだけにとらわれず、どのように教えるか。指導者としてあるべき姿、基本をまとめたのがこの1冊だ。具体的な技術論から、選手を教える上で指導者が心得るべきリーダー論まで、野村元監督の野球人生における経験をすべて凝縮した1冊になっている。
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