戦うのではない。ファンのため、選手のために交渉する【事務局長・松原徹氏に聞く、日本プロ野球選手会の実態6】
2004年の球界再編問題の時に、日本のプロ野球選手会の存在を知った野球ファンの方は多くいるのではないだろうか。今回、ノンフィクションライターの田崎健太氏がプロ野球選手会事務局長の松原徹氏へ選手会、そして野球界の抱える様々な問題について取材を行った。6回目はストライキやFAに対して、選手会はどのようにとらえているのかを聞いた。
2015/05/31
日米の違いが顕著な、ストライキに対する考え方
メジャーリーグ選手会の顧問弁護士、ジーン・オルザは筆者と会ったとき、「日本のプロ野球界はアメリカよりも30年以上遅れている」と指摘した。
選手会の事務局長、松原徹たちは、2001年9月11日の同時多発テロのチャリティをきっかけにメジャーリーグの選手会と情報交換するようになった。
メジャーリーグの選手会初代委員長だった、マービン・ミラーの名著「FAへの死闘 大リーガーたちの権利獲得闘争記」(武田薫訳 ベースボールマガジン社)を開くと、メジャーリーグもかつては日本と同じように、経営者が選手たちを都合良く縛っていた様が描かれている。
選手会でさえ、御用組合で、選手会顧問を球団オーナーが選んでいた程だ。
〈この(ロバート・)キャノンが終始一貫して選手たちに言ったことは、好きな野球をやって暮らせるなんていかに幸福であり、スポーツの歴史で選手と経営者が野球ほどうまくいっている競技はない、である〉
そうした空気を変えたのが、66年に委員長となった、ミラーだった。
ミラーはアメリカで3番目の規模の全米鉄鋼労連の主席エコノミストだった。このミラーの委員長時代に、メジャーリーグ選手会はFAをはじめ、数々の権利を勝ち取っている。その武器となったのがストライキだった。
72年と81年にそれぞれ、13日86試合、50日713試合のストライキを実行している。
このストライキについて日本とアメリカでは全く考えが違うと松原は考えている。
2004年、大阪近鉄バファローズの消滅に伴う球界再編の際、松原たちが心を砕いたのは、いかにストライキに持ち込まず交渉するか、だった。
「アメリカのメジャーリーグ選手会の幹部選手から、ファンの気持ちを我々選手が考える必要はない、と言われたことがあります。日本ではストライキに対する反発がある。どうやって世の中の人たちの共感を勝ち取るのか、やり続けているのに、全く文化背景が違うのだと。我々にとってメジャーの選手会はお手本ではあるのですが、ストライキについての考え方は全く違います」
労働者が団結して闘うという意識の強度が、アメリカと日本とは全く異なっている。ストライキを実行することにより、反発を受け、野球人気自体が下がってしまうことを、松原たちは懸念したのだ。
その発想は、非常に日本的だと言えるかもしれない。