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上沢直之を襲った一球――『不動のエース』への物語は来季へ【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#104】

先日、DeNAソトの痛烈な打球を受け、そのまま退場となった上沢直之。診断結果は左膝蓋骨骨折――チームにとって、あまりにも痛すぎる戦線離脱となった。

2019/06/23

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ダブルエースで夏場の大型連勝を期待していたが……

 上沢直之の戦線離脱について書かなくてはならない。胸ふさぐ想いだ。あまり気がすすまない。といってエースの、事実上のシーズンアウト(今季絶望)に触れなかったら野球コラムの体(てい)を成さない。これはチームのトップ項目だ。2019年シーズンのセ・パ交流戦、敵地ハマスタに乗り込んだファイターズは最悪の運命に直面した。
 
 6月18日、横浜DeNAベイスターズ戦1回戦だった。ファイターズは巨人に連敗し、DeNA戦で何とか巻き返したいところだった。エース上沢を立ててカード頭を取りに行った。ベイスターズ先発は若い平良拳太郎、投手の格からいっても勝利が期待できる。ファイターズファンは上沢vsDeNA打線のマッチアップに心躍らせていたのだ。
 
 上沢は今季初めて開幕投手を務めた。これまでチームのエース格は有原航平だったが、今季の序列は上沢が一歩先を行った感じだった。ついに上沢がエースローテで回る。僕は大注目したのだ。よく「ポジションが人をつくる」という言い方をするじゃないか。エースの称号は上沢をどう変えるだろう。
 
 僕は上沢はワンランク大きなピッチャーに成長すると踏んでいた。パの顔になってほしかった。その意味ではこの交流戦で大いに売り出してほしかった。上沢はマウンド姿が絵になる投手だ。スター性がある。「上沢に出て来られちゃしょうがない」という存在になってほしかった。
 
 それからチーム内のことを言えば有原のライバル心にも火をつけてほしかった。上沢と有原、2人の好投手が両輪となって働いてくれたらファイターズは無敵だ。「上沢、初の開幕投手」は取りも直さず「有原、開幕投手はく奪」である。
 
 捲土重来に燃える有原は今季、ツーシーム(昔の言い方でいえば「シュート」)をマスターし、長年の課題だった右打者のインコース攻めをするようになった。多投はしないのだが、効き目はバツグンだ。僕はオープン戦で有原のツーシームを見て、今季はキャリアハイの成績を挙げるのじゃないかと思った。
 
 一方、上沢は開幕から本調子とはいえなかった。技術的な問題点は僕にはわからない。先に点をやれない投手戦の展開で、ホームランを喫するシーンが目立った。といってもクオリティが違う。本調子でなくても試合はしっかりつくってくれる。たぶんホンモノのピッチングを見せてくれるのはこれからだろうと胸算用していたのだ。
 
 開幕から有原が算数のテストで(ケアレスミスだけの)「95点答案」を叩き出していたとしたら、上沢は「80点平均」といったところだった。これから状態が上ってきたらすごいことになる。ハイレベルの争いだ。事実上の「ダブルエース」だ。夏場、マルティネスが帰ってきたら面白いことになるぞ。これはチームに大型連勝をもたらすパターンだ。
 
 ところがそれは今季叶うことがなくなったのだ。考えただけで泣けてくる。6回裏2死、打席には好調ソト。2球目の変化球を基本通りセンター返しした。
 
 痛烈な打球だった。脚に当たって、上沢が転倒する。跳ね返ったボールをキャッチャー清水が拾って1塁に送球した。が、試合経過などどこかへ行ってしまった。
 
 うずくまった上沢の様子が尋常じゃない。身体を折り曲げ、左ヒザを押さえている。スローで確認すると打球は左ヒザをまともに直撃していた。ベンチからトレーナーが飛び出した。チームメイトが心配そうに集まる。場内は騒然。

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