「球団方針をまさに体現している場所」。カープアカデミーはドミニカの若者に“ジャパニーズドリーム”を与える
広島東洋カープが運営するドミニカカープアカデミー。これまでも何人もの選手を日本球界へと送り込み、成功させてきた。現在も5選手が支配下に名を連ねており、“強いカープ”を支える重要なピースとなっている。
2019/08/28
高橋康光
有望な選手はメジャーのアカデミーへ流れる
こうしたアカデミー生たちだが、彼らは初めから日本球界や広島でのプレーを目指していたわけではない。
この点について、2015年当時のアカデミー現地責任者だった山根さんは「予算の規模ではどうしてもメジャーのアカデミーに劣るので、有望な選手はそちらに流れてしまいます。我々はリリース選手と呼んでいるのですが、一度メジャーのアカデミーをリリースされた選手や、アメリカ球界で失敗した選手が再起を図るべくカープの門を叩くというケースが多いですね。ですから10代の子もいれば20代半ば過ぎの選手もいたりします」と語ってくれた。
翌2016年1月にもアカデミーを再訪したが、この時に現在活躍中のフランスア、バティスタ、メヒアの3選手を目にすることができた。3名ともMLB挑戦の夢が絶たれた経験を経てのカープアカデミー入りした選手だ。日本での春季キャンプに参加することが決まっていた彼らは、一様に日本球界での成功に向け強い決意を述べており、また設備投資も増強されたというアカデミー全体の盛り上がりも印象的であった。
ドミニカ共和国の「プログラム」(MLBアカデミー入団を目指す13歳~16、17歳世代がプレーするカテゴリーの総称)で指導者として活動中の藤田直人さんは「ドミニカでは、日本は野球の盛んな国であること、大谷翔平選手、田中将大投手、イチローさんといったMLBで活躍する選手は知られていますが、残念ですがNPBについての情報は少なく、フランスアやバティスタといったドミニカ人選手、カープアカデミーの存在も特に知られてはいません」とドミニカにおける日本球界の位置づけについて述べる。
それも致し方ないことであろう。MLB全30球団がドミニカ国内にアカデミーを持ち、この7月も16歳のジェイソン・ドミンゲス外野手がニューヨーク・ヤンキースと約5憶5000万円という巨額の契約を結んだことが大きな話題になった。やはりMLBのマーケットはあまりにも巨大だ。
この点についても藤田さんは「ドミニカの少年たちにとって第一の選択肢はMLBです。巨額の契約を手にする少年たちは、13、14歳くらいの段階で、実績のある有力なプログラムに引き抜かれているケースが多いです。なので、必然的にお金のあるプログラムにいい選手が集まります。プログラムにもヒエラルキーのようなものがあり、有力なプログラムは用具、施設が充実しており、選手が契約金を手にしたときにそのうちの何割かをマージンとして手に入れます」と語ってくれた。特別裕福とはいえないドミニカ共和国でもお金が動くところでは動く。
そして「認知度も違いますし、MLBの市場は日本とは比べ物になりません。したがって、アメリカ行きを勝ち取れなかったMLBアカデミー生、マイナーリーグをリリースされた選手たちが日本球界行きを意識するようになるのというのが現状です」と藤田さんは続けてくれた。