田中賢介、福浦和也……一時代とのさよなら。野球史の一員になった平沼翔太への期待感【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#111】
各球団がレギュラーシーズンを終える今、今季限りで引退する選手たちとの別れが続く。
2019/09/29
意外な小田の「師匠」
9月27日、ファイターズの今季最終戦を前にこれを書いている。言うまでもなく最終戦は田中賢介の引退試合だ。ほぼ確実に僕はダダ泣きだろう。1人のプロ野球選手とさよならすることは、その選手を見てきた時代とさよならすることだ。ファンにとっては自分史のひと区切りでもある。寂しい。ため息が出る。いつかはそんな日が来るとわかっていたのに踏ん切りがつけられない。
つい4日前のZOZOマリンのことを思い出す。9月23日秋分の日、福浦和也の引退試合。僕は仕事で現地へ行くことができず、夜遅く日テレnews24の録画でじっくり試合を楽しんだ。ネットの速報でもう1対6でファイターズが負けたことは知っている。それでも一切飛ばさないで「原寸」で見た。ファイターズが負けたのは残念だけど、それはちっぽけな話だ。福浦和也は90年代から一緒にパ・リーグを熱く盛り上げてきた「戦友」なのだ。もちろんロッテファンの思い入れとは比較にならないから、一歩下がった立場を取るけれど、パの残りの5球団のファンだってみんな福浦が大好きなんだ。
中継録画を見ながら、さっき田中賢介について書いたのと同じことを思った。敵チームの選手であっても同じことだ。1人のプロ野球選手とさよならすることは、その選手を見てきた時代とさよならすることだ。自分史に区切りをつけることだ。福浦の姿を見て、濃密なパの空気を感じた。台頭してきた頃、構えがケン・グリフィーJrっぽくてカッコいいなぁと思ったのを覚えている。最初は投手で入団して、すぐ野手に転向した。華のあるスタープレーヤーだが、26年間、打撃技術を磨き続けた職人タイプでもある。
ファイターズとの縁でいうと、だいたい打たれた思い出ばかりになるのだが、ひとつ意外なエピソードがある。今、2軍でコーチをやってる小田智之が打撃に悩んでいた頃、つき合いがなかったにもかかわらず教えを乞うたのだ。プロでは珍しいと思う。まぁ、誰かに紹介してもらって一席設けて、というパターンが多いんじゃないか。小田は求めるものがあった。ダメ元で福浦に頭を下げ、悩みを打ち明けた。福浦はライバルチームの小田を真正面から受けとめてくれた。だから福浦は小田智之の「師匠」なのだ。小田がコーチしている鎌ケ谷の若手はことによると福浦の「孫弟子」なのだ。人の縁を思う。そして福浦という選手の大きさを思う。
日テレnews24中継はジョニー黒木さんの解説がよかった。福浦のヤンチャな若手時代のエピソードを楽しく聞いた。1イニングずつ試合が進んでしまうのがもったいなかった。この試合、うちが対戦相手になったのも面白い。井口監督の引退試合もファイターズ戦だった。そりゃもちろん日程の関係ではあるけれど、何かこう、パとして送り出すとき、ファイターズ戦はしっくり来るんじゃないか。「日本ハム」も「ロッテ」もずっと変わらないパの顔だ。ファミスタでは「フーズフーズ」としてまとめられた仲だ。
しかし、最終回がやってくる。9回表、ロッテのマウンドには守護神益田。ファイターズは清宮三振の後、石井一成センター前ヒット! 続く宇佐見は三振で、2死1塁で平沼翔太が打席に向かう。