川相昌弘、ドラフト4位の肖像#4――「早稲田実業との対戦は望むところだった」
ドラフト四位指名―ドラヨンに結果を残している選手が多い。ドラフト一位指名は、その時点で同年代の野球少年の最前列にいると認められたことになる。その意味で、ドラヨンは、二列目以降の男たちとも言える。そんな“ドラヨン”で入団した野球選手を追った10/16発売の新刊「ドラヨン」から一部抜粋で公開する。
2019/10/17
田崎健太
分析された優勝候補
甲子園を二度体験したことで、川相の目は全国に向くようになっていた。もう一度甲子園に戻ってきて、今度はもっと高い場所まで登るつもりだった。
春季県大会は優勝、そして高校最後の夏がやってきた。
大会前の『山陽新聞』で岡山南は、当然のように優勝候補として紹介されている。
〈投攻守のバランスは県下一。新チーム結成以来、県大会、中国大会では負け知らずの17連勝。タイトルの完全制覇を目指す。
大黒柱はエース川相。速球、カーブのコンビネーションに加え沈むシュートをマスターし、失点が2点までと計算できるのは大きい。守りも穴はなく、捕手直松は、クイックモーションとスローイングの正確さで、肩の弱さをカバーする。
打線はジグザク、破壊力を秘める。ガッツ土屋をトップに据え横谷、本間、川相には一発長打、水嶋が六番に入り、下位に厚みが出来た。県大会では先行を許したのが過去一度だけ。劣勢になった時、モロさが出るかどうか。精神力がカギを握っている〉(一九八二年七月一一日)
野球という競技には偶然、理不尽が含まれている。長期的なリーグ戦であれば必ず強いチームが上に行く。しかし、短期決戦のトーナメント戦は番狂わせがつきものだ。一試合だけの対戦であれば、力の差があったとしても、片方が必ず勝利するというものではない。加えて精神的にまだ完成されていない高校生である。盤石な優勝候補はありえない。強いと認められているが故に、戦い方を分析され、徹底した対策をとられる。
川相たちはその標的となっていた。
田崎健太 たざき・けんた
1968年3月13日、京都市生まれ。ノンフィクション作家。
早稲田大学法学部卒業後、小学館に入社。『週刊ポスト』編集部などを経て、1999年末に退社。スポーツを中心に人物ノンフィクションを手掛け、各メディアで幅広く活躍する。著書に『W杯に群がる男たち―巨大サッカービジネスの闇―』(新潮文庫)、『偶然完全 勝新太郎伝』(講談社)、『維新漂流 中田宏は何を見たのか』(集英社インターナショナル)、『ザ・キングファーザー』、『ドライチ』『ドラガイ』(カンゼン)、『球童 伊良部秀輝伝』(講談社 ミズノスポーツライター賞優秀賞)、『真説・長州力 1951-2015』(集英社インターナショナル)
『電通とFIFA サッカーに群がる男たち』(光文社新書)など。
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CASE6 達川光男(77年ドラフト4位 広島東洋カープ)