【田崎健太×村瀬秀信対談】 ノンフィクションの書き手がプロ野球ドラフトをテーマに語り尽くす
毎年様々なドラマを生んできたこのドラフト会議の順位を切り口に選手を取材し、書籍を書いた田崎健太さん(『ドラヨン なぜドラフト4位はプロで活躍するのか?』カンゼン刊)と、村瀬秀信さん(『ドラフト最下位』KADOKAWA刊)のおふたり。 同じテーマを取り上げながらまったく別の魅力をもつ書籍を書かれた両名に、ドラフトの面白さや、ノンフィクションの書き手としての視点、取材秘話について熱く語っていただきました。(2019年10月16日開催『ドラフトを語ろう』トークイベントより)
2019/10/21
取材で感じた4位と最下位の差
村瀬 そしてこれまで『ドライチ』『ドラガイ』ときて、次が『ドラヨン』。そこに来るのか! と、うなるような思いでした。
田崎 これも前から狙っていたんです。『ドライチ』を出した後に、次を『ドラガイ』にするか『ドラヨン』にするか悩みました。順番を考えて、結局先に『ドラガイ』を出したんですが、ドラフト4位指名選手で活躍している方ってたくさんいるなと。でも、取材を始めてみると、ドラフト4位という順位に複雑な思いを抱えている選手も多いということがわかりました。取材を受けてくださった方は皆さんポジティブにとらえていたんですが、本にも書いたように取材を受けてもらえなかった方もいて、想像していた以上に大変でした。
村瀬 4位ですら屈辱という感じがあるんですか?
田崎 ドラフトに指名されるような選手はみんな自分の力量に自信がある。それなのに上位とされる3位以内に入れなかったことは屈辱、人生の染みのようなものなのかもしれません。そういう意味で、「ドラヨン」と「最下位指名選手」との間には、実は数字よりももっと大きな差があるのかもしれません。
村瀬 最下位指名の選手たちの中には、「自分がドラフトにかかるとは思っていなかった」という人もいますからね。プロに入った後で、またそこに大きな壁があるんでしょうね。
例えば『ドラフト最下位』で取り上げた高橋顕法さんなんて、高校時代一度も登板してないでドラフトにかかってます。
田崎 そういう人の取材って大変じゃないですか? 取材もそうですけれど、無名の選手をどう描くかは腕が問われる。
村瀬 そうですね。みんなが知らない選手を取り上げるというのは、イチから説明しなきゃいけないという意味での大変さはありますが、逆に掘られていない分、自由に構築できるというやりがいはありましたね。
野球が好きですか?
田崎 村瀬さんって野球がやっぱり本当に好きなんですか?
村瀬 どうですかね……田崎さんはどうですか?
田崎 僕は好きかどうかよりも、全ての事象を「作品になるか、どうか」「この人をこう書いたら面白いんじゃないか」でという目でみている。本当に純粋にファンとして追いかけているのは、MOTOGP(オートバイレース)くらいかもしれません。
村瀬 僕は……“ベイスターズを嫌いになれたらどれだけ楽だろう”って……。
田崎 えぇっ(笑)!?
村瀬 もう、ダメなんです。あの球団に関しては僕の中でベースボールなジャーナリズムは死に絶えています。冷静な第三者の視点とか考えても、ぐわぁぁってなるんですよ。『4522敗の記憶』を書いたときには、これを書いてもう横浜の仕事を一切やめようと思ったんです。横浜への遺書にしようと思って。でもなんやかんやでやめられない。結局仕事も、ファンも続けています。
田崎 『4522敗の記憶』、愛情が詰まってましたもんね。ただ、焦点を当てているのは「負けた数」です。村瀬さんのベクトルが下に下に向かうのが面白いです。私的ノンフィクションというか、純文学の私小説、太宰(治)の系譜にあるといってもいい(笑)
村瀬 太宰!? 『すぐ自殺しそう』という意味ならわかりますけど……ありがとうございます。