里崎引退に思う。来季の千葉ロッテに必要なのは——彼が実践した「楽しむ野球」を継承することだ!!
里崎智也の引退試合となった9月28日のオリックス戦。ロッテの本拠地・QVCマリンフィールドは、2シーズンぶりの満員札止めを記録した。すでにCS争いはおろか、誰ひとりとしてタイトル争いにさえからんでいない〝終戦〟状態なチームの試合に、これほどの観客がつめかける――。そんなある種、異様ともいえる光景に、僕らは里崎という男のスゴさをあらためて感じさせられることになったのだ。
2014/10/03
〝KY〟なチームカラーの体現者
そもそも、扇の要である正捕手の不在という状態が長く続いたチームにとって、橋本将らとともに切磋琢磨を続けて台頭してきた里崎の登場は、それだけですでに十分すぎるほどの希望を持てる朗報だった。
また2005年、2010年の日本一などは、ムードメーカーとして〝調子乗り〟な西岡剛(現・阪神タイガース)や今江敏晃を焚きつけた、彼の存在なしには決してなし得なかった奇跡といっても過言ではないだろう。
むろん、あの松坂大輔(現・ニューヨーク・メッツ)をして「意味がわかんない」とまで言わしめた強気すぎるリードは、野村スコープのお眼鏡にはちっとも適わなかったし、一時は、リード面を評価された的場直樹(日本ハムファイターズ二軍バッテリーコーチ)に取って代わられることさえあったほど。
打者としても、ここ一番の場面では類まれなる勝負強さを発揮する一方、三振の山を築くこともしばしばで、コンスタントに成績を残せたかといえば、微妙なところではあるだろう。
しかし、それでもなお、里崎という男が多くの人々を魅了してやまないのは、彼自身が「野球を楽しむ」ということを誰よりも体現し続けた、その首尾一貫した姿勢のたまもの。
ことに05年以降は、彼のプレースタイルそのものが、そっくりそのまま、一度調子に乗ると手がつけられない〝KYなロッテ〟というチームカラーにもなっていたと言えるだろう。
あの夜、感動的だった引退セレモニーの直後に敢行された、特設ステージでの〝ラストライブ〟では、アイドル顔負けの写真入りうちわが打ち振られるなか、5000人もの観客がそのパフォーマンスに酔いしれた。冷静にみれば、ただのオッサンのカラオケでしかないその熱唱に、居残ったファンが喝采を贈ったのは、声を裏返らせながらも嬉々として歌う彼の姿が、やはり心底「楽しそう」だったからだろう。
正直なところ、里崎の抜けた〝穴〟は、戦力外となった中日・小田幸平を仮に獲ったところで埋まるような生半可なものではまったくない。それよりなにより、今季まったくいいところがなかった戦いぶりから脱却するのに必要なことはただひとつ。負けてもいいから「楽しく」野球をやることだ。
里崎自身が後輩たちに託した〝遺言〟を、残された現役選手たちがキッチリ実践して、「まず隗より始めよ」ならぬ「まず里崎から始めよ」の気概を、試合のなかで見せてくれるのなら、たとえちょっとぐらい負けが混もうが、マリーンズファンはついてくる。
球場の内外で旺盛すぎるサービス精神をみせた稀有な逸材、里崎に続く人材が現れるか否か――。それこそが、5年に一度の〝ゴールデンイヤー〟を迎える来季のチーム浮沈を左右するカギとなるに違いない。