ソフトバンク中南米担当スカウトが語る優良助っ人獲得の舞台裏。地道に「自分自身の足で長い時間をかけて」
常勝軍団の福岡ソフトバンクホークス。その強さを支えているのが外国人選手のスカウティングにある。昨年は、ユリスベル・グラシアル内野手が日本シリーズMVPに輝く活躍をみせた。ほかにもスアレス、デスパイネらの獲得に尽力した萩原健太中南米担当スカウトに話を聞いた。(取材・文:高橋康光)
2020/04/02
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「一度のトライアウトで選手の力量を判断するのは酷」
新型コロナウイルス感染拡大は萩原スカウトの活動にも大きな影響を与えそうだ。先が見えない状況の中で、今季の活動についてどのように考えているのだろうか。
「飛行機での移動はリスクが大きいので、ドミニカに腰を据えて活動する時間が増えそうです。とにかく、ドミニカの球界関係者からは『お前は全くドミニカの選手を獲得しないな』といつも冷やかされているので(苦笑)、これもいい機会かもしれません。色々な町を回って原石に出会えるチャンスを探りたいです。
これまでの5年で、中南米各国のリーグ、ウインターリーグ、国際大会をつぶさに見てきたので、おおよその選手の情報は頭に入っています。ただ、本当に優秀な選手はMLBの球団に持っていかれていることが多いので、近年の国際大会やウインターリーグでは、なかなか逸材と呼べる選手にお目にかかれないという状況です。なので、キューバであればU-23のリーグ戦など、まだ世間の目が届いていないところに注目したいですね」
優秀な選手が一堂に集う米国本土と比べると、中南米でのスカウティング活動の難しさは想像に難くない。一年中、ラテン野球世界を地道に歩き続ける萩原スカウトだからこその想いがある。
「うち以外のNPB球団もドミニカを始め色々な国にスカウトを送ったり、トライアウトを開催する機会も増えているようですが、それはいいことだと思っています。ただ、長年ドミニカに拠点を置く立場から言わせてもらうと、1、2週間の滞在で簡単に逸材が見つけられるとは思いません。日本のスカウトだって長い時間をかけて高校生を追いかけているというのに、言葉も文化も違う国での一度のトライアウトで選手の力量を判断するのは酷だと思います。こちらではトライアウトに合格するためにドーピングする選手もいるくらいです。いざ契約してみたら、トライアウト時の実力はドーピングによるものだったという笑えないことも起こります。
私は、自分自身の足で長い時間をかけて中南米を回っているという自負もあります。ですから、少なくとも私の担当地域において、他球団の獲得選手の中で”先を越されてしまった”というケースはこれまでにありません。各球団それぞれに事情もあるでしょうから、中南米に常駐スカウトを置くのは難しいでしょう。ですから、私が結果を出すことで、中南米スカウトという仕事の価値や地位を高めることに繋がると思っています」