野村克也監督が信頼する人物とは? 参謀に求めてきた、膨大な『データ』
野球界における参謀の存在意義 “名将の思考”と“今の時代に求められる指導者像”を記した橋上秀樹氏最新刊『常勝チームを作る、最強ミーティング』から第2章「3人の常勝監督が求めた参謀」を発売に先駆けて公開です。
2020/05/07
先回りした準備が必要
楽天時代、野村さんが必要とした参謀は、さまざまなデータについて、事前に先回りして準備しておくことのできる人間だった。
「このピッチャーは、2ボール2ストライクになると、どんなボールを投げてくることが多いんだ?」
「このバッターは、どこによく打球を飛ばすんだ?」
「このバッターと一塁ランナーの組み合わせだと、ヒットエンドランを仕掛けてくる確率は高いのか?」
試合は一球ごとに状況が目まぐるしく変わっていく。そうした展開にいち早く対応できるデータを、参謀が伝えなくてはならないのだ。
もし即座に答えることができなければ、野村さん自身もストレスがたまっていく。それでは本当の意味で、野村さんの下では参謀は務まらない。
かくいう私も試合中に、野村さんから質問攻めを受けた。たとえばノーアウト一塁で、バッターのカウントが2ボール1ストライクになると、
「ヒットエンドランのサインを出したいんだが、このカウントだと相手バッテリーはこれまで何度外してきたんだ?」
そこで私は、「これまで一度も外していません」、あるいは「今シーズンは2度外したとデータにあります」など、すぐに答えられなくてはならない。しかもその直後、次のボー ルがストライクで、2ボール2ストライクになると、
「このカウントだと、ピッチャーはどんなボールを多く投げてくるんだ?」
というように、一球投げるごとに質問が変わってくる。そのときも「アウトローのストレートです」「真ん中からアウトコースにスライダーを投げてきます」というように、即答できなければならない。
そのために参謀としてやっておくべきことは、
「監督が必要としそうなデータを、あらかじめ下調べをして準備しておく」
ことである。準備を行うのは試合前の数時間しかなかっただけに、私も早めに球場入りをして、膨大なデータをファイルにまとめておいた。そのうえで、何を聞かれてもすぐに 取り出して答えられるように、データ整理を常に怠らなかった。