無敗の田中将大を攻略。名参謀が明かす、日本シリーズで巨人が徹底した“捨て身”の戦法
野球界における参謀の存在意義 “名将の思考”と“今の時代に求められる指導者像”を記した橋上秀樹氏最新刊『常勝チームを作る、最強ミーティング』から原辰徳さんとのエピソードを第4章「戦略が必要な選手、必要のない選手の違いとは」から一部抜粋で公開です。
2020/05/22
Getty Images
前人未到の記録を打ち立てた田中
難攻不落のピッチャーを打ち崩すには、チームとして「ひとつの作戦を徹底させる」。
2013年の日本シリーズにおける、楽天の田中将大がまさにそうだった。この年の田中の成績は、もはや語るまでもあるまい。28試合に登板して24勝0敗。防御率1・27。24勝も驚異的な数字だが、0敗で終わったことのほうがすばらしい。何せシーズンでは一度も負けなかったのだ。過去のプロ野球界で、もちろん誰もいなかったし、未来永劫、これほどまでの記録を樹立するような選手は出てこないかもしれない。
けれども、この年の春に開催された第3回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック) では、田中の調子は今一つだった。侍ジャパンのエース格として期待されていたのだがストレート、スライダー、フォークボールと、投げる球はことごとく打たれ、首脳陣からも「怖くて使えない」という声が上がるほどだった。その結果、大会の途中からは先発ではなく、中継ぎとしてブルペンで待機してもらうことにした。
それがWBCからペナントレースに戻った途端、投げては勝ち、また投げては勝ちと、連勝記録が伸びていった。同時に、楽天も夏場以降からあれよあれよという間に快進撃を見せ、最終的には球団創設初のパ・リーグ制覇、優勝を決めた西武戦では、田中がみごとに胴上げ投手となった。