王のブレイクでONがリーグを支配 セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1962年編~
2020/07/03
Getty Images, DELTA・道作
1962年のパ・リーグ
チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点差
東映 133 .600 539 416 123
南海 133 .562 580 510 70
西鉄 136 .477 483 489 -6
大毎 132 .462 552 571 -19
阪急 131 .462 451 517 -66
近鉄 131 .438 464 566 -102
wRAAでは58.6を記録した張本勲(東映)が2年続けての首位を獲得。僅差の2位には野村克也(南海)が入った。張本は打率・本塁打・打点の打撃三冠をいずれも手にしてはいないが、出塁・長打ともに高レベルで能力を発揮。特に出塁率.440は打率.374を記録したブルーム(近鉄)をも上回った。
2位の野村は44発と本塁打量産により、群を抜いた長打率.636を記録。wRAAは58.3と首位・張本の数字に誤差レベルまで迫っている。特にこの年記録した44本塁打はパ・リーグ新記録。しかも少ない試合数、本塁打の出にくい環境の中で記録されている。以前筆者は本塁打が出やすい・出にくい年の環境を均し、同じ環境でプレーした場合、各打者がその本塁打数を記録するのがどの程度難しかったかを二項分布によって分析した。その時、この打低の年に記録した野村の44本塁打は、歴史的にもトップ10に入るような難易度の高い本塁打記録であることがわかった。野村は通算で9度の本塁打王を獲得しているが、本塁打という観点での最高パフォーマンスはこの年であったと考えられる。
またここで順位表も見ておこう。この年の勝率は優勝した東映が.600、最下位の近鉄でも.438。最下位の近鉄にしても得失点差は-100程度に収まっており、力が拮抗した興味深いリーグ戦であったことがうかがえる。優勝した東映は、強力投手陣による最少失点が物を言った形である。得点力はそれほど傑出したものではなかった。東映はフランチャイズビルダー(長年にわたり強豪チームの顔として確固たる地位を築く選手)の張本を抱えているにもかかわらず、このあとも得点力の高いチームを構築できずに終わってしまう。これは非常に残念なことであった。
リーグ全体の傾向を見ると、本塁打と四球が減ったかわりに野手全体の打率が向上。打率は前10年及び後ろ8年のいずれの数値をも上回った。結果、11人の3割打者が生まれている。ベスト10圏外の選手として成績を掲載したのは関根順三(近鉄)。ニッポン放送及びプロ野球ニュース時代に解説者として親しまれた関根氏は投手・野手の両方で活躍をした。この年は関根の打者転向後におけるベストシーズンである。