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野村克也が戦後初の三冠王に セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1965年編~

2020/07/09

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Getty Images, DELTA・道作



1965年のパ・リーグ

チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点差
南海  140 .642 614 449  165
東映  140 .555 501 474  27
西鉄  140 .529 506 476  30
阪急  140 .486 500 549  -49
東京  140 .456 476 472  4
近鉄  140 .333 397 574  -177
 

 
 1965年は野村克也(南海)が戦後初の三冠王を獲得し、wRAAでも59.7で1位となったシーズンである。この年のダリル・スペンサー(阪急)とのし烈な首位打者と本塁打王を巡る争いはすでに有名な逸話として定着している。特に東京投手陣がタイトル争い中のスペンサーに8打席連続四球を与えた件は、書籍『菊とバット』により、日本社会が外国人に対してアンフェアであることの表れのように記述され、これが米国内にも拡散されている。しかし私としてはこのことについては、心外に感じている。数的な根拠をもったものと思えないためだ。以下にスペンサーの打席数・四球数に関する表を挙げる。

      打席  四球  敬遠  四球/打席
MLB通算  4206  449  25   10.7%
阪急(64) 605  85   5   14.0%
阪急(65) 485  79   9   16.3%
阪急(66) 477  71  12   14.9%
 
 スペンサーはMLBでも四球が少ない方ではなかった。打席あたりの四球割合はMLB通算で10.7%。阪急でのはじめの3年間は15%前後となっているが、これは来日後にリーグ1・2を争う強打者となり警戒されたためだ。MLB時代に比べて四球が増えるのは自然な成り行きである。
 
 また来日後3年間の四球の推移についてもさして違和感はない。特にこの1965年と翌年の打席・四球を見ていただきたい。1965年が485打席で79四球、1966年が477打席で71四球だが、1965年の成績から8打席連続の四球を除くと、この2年間は打席477、四球71で両方の数字は1個の誤差もなく完全に一致する。たしかにタイトル争いがシビアになるシーズン終了間際でもない夏場に、ほぼ意識的な連続8四球が行われたのは奇妙な事態である。しかしほかの年とまったく同じ477打席と、突発事故的な8打席があったとき、その8打席のほうばかりにクローズアップされるのはいかがなものだろうか。常識的には大多数を占める477打席の方をもって通常の状態と判断すべきなのではないか。
 
 スペンサーは直情的な性分があったようで、「自分にエラーをつけた記録員のところまで行って記録用紙をびりびりに引き裂いた」「乱闘の際に後ろから襲われ、『日本人の得意は不意討ちだから驚かない』とコメントした」など危険な言動が目立ったと伝えられる。このためすでに首位打者を取っていたブルーム(南海)などとは違い他球団からあまり良い感情を持たれてはいなかったことも確かなようだ。8連続四球は前後試合の成績から見ても唐突過ぎる。以下は推測だが、前段で売り言葉に買い言葉的な何かのやりとりがあり、その日の東京投手陣がスペンサーの打席をボイコットするような特殊な事情があったのではないか。
 
 たしかに結果としての四球数にそういった事情がすべて反映されているわけではない。ストライクが来ないことに業を煮やしてボール球を打ったような場合があれば、勝負を避けられているにもかかわらず四球は増えないだろう。だが同様の事例は一例が伝わっているのみである。そしてそれを延々繰り返していたのではこれほどの素晴らしい成績を収めることはできない。
 
 変わった事例や一時のコメントを切り貼りすれば、かなり奇妙な社会であることを描写することはたやすい。その方が読者の興味を引きやすいことも想像はつく。しかし逸話のニュアンスが実際に残ったスタッツと合致しているようには私には思えない。
 
 話は長くなったが、この年はwRAAでは野村が1位、1打席当たりの実績であるwOBA(※3)、長打率、出塁率はスペンサーが1位となった。出塁率と長打率の両方で1位を独占するのは大下弘(当時西鉄)、山内和弘(当時毎日)、中西太(当時西鉄)に次ぎパ・リーグでは4人目のことである。
 
 ほかには広瀬叔功(南海)が前年につづき好成績を残していること、守備職人としてその名も高い小池兼司(南海)が打撃でベスト10に入っていることが目立つ。小池はキャリアで唯一のベスト10入りだった。ベスト10圏外としてピックアップしたのはスタン・パリス(東京)。惜しくも規定打席には届かなかったが、高い長打率を武器に、規定打席到達であれば5位に相当するwOBA.361をマークしている。

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