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安打製造機・榎本喜八が全盛期に セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1966年編~

2020/07/12

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Getty Images, DELTA・道作



1966年のセ・リーグ

チーム  試合 勝率 得点 失点  得失点差
読売   134 .685 559 335  224
中日   132 .585 521 400  121
阪神   135 .492 386 399  -13
広島   136 .438 420 512  -92
大洋   130 .400 428 557  -129
サンケイ 135 .400 364 475  -111
 

 
 首位は王貞治(読売)でwRAA85.8。wRAAを勝利の単位に換算した値(※2)では9.9のスコアを記録した。試合数が前年より減ったためにわずかにスコアは落ちたものの、1試合あたりの内容としてはこの年のほうが良好だった。

 出塁率は.499と5割に迫り、平均的選手に対するwOBAの倍率(※4)は1.67倍と、1951年に大下弘が残した1.66倍を上回った。こうした率系の指標は試合数が多くなるほど傑出度は均されていく。開幕当初は4割打者が多くいるが、シーズン終盤には高くても打率3割中盤になっていくのと同じだ。大下が89試合出場でマークした傑出度の記録を、王は129試合出場で超えたのだ。王の記録のほうがより価値が高いと考える。
 
 2位の長嶋茂雄(読売)も首位打者を獲得し、wRAA56.2を記録。これは通常のシーズンであればランク1位になるほどの成績である。このONがランキングを席巻する状況に対しては中日が対抗する勢力になってきており、江藤慎一が3位に、ほかに中暁生と高木守道がベスト10にランクインした。前年と同様に3人がwRAAランキングベスト10に入った結果、チーム総得点は読売の559に対して521と、リーグ内において唯一攻撃面で対抗できるチームとなっている。ほかには山内一弘(阪神)、山本一義(広島)が3年連続のランクインとなったほか、松原誠(大洋)が初登場している。
 
 ベスト10圏外の注目選手は柴田勲(読売)。打率.251で7本塁打など、旧来の指標ではさして優秀とは見えないが、多くの四球を奪うしぶといスタイルで出塁率.360を記録している。この年は王に次ぎリーグで2番目に多い65四球を獲得したほか、46盗塁13盗塁死で初の盗塁王を獲得。ONの前を打つチャンスメーカーだけに、柴田に対する四球は他球団にとって大変に痛いものであったことは想像に難くない。相手球団がなんとか四球に出さないよう細心の注意を払う中、選び続ける忍耐力は相当なものである。
 
 パ・リーグの項で、リーグ全体の四球が減少していることを紹介したが、セ・リーグでは四球だけでなく、盗塁も減少している。セ・リーグでは四球が2106から1920へ、盗塁が548から431にまで減った。もしかするとストライクゾーンとボークの運用に微妙な変化があり、このような変化が起こったのかもしれない。同様の事例は1962年のセ・リーグにもあり、両リーグで独自に最も適切なゲーム運用を探っていることの反映と見る。
 
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
 
DELTA・道作
 
DELTA@Deltagraphshttp://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。
 

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