衣笠が全盛期を迎えONに接近 セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1971年編~
2020/07/27
Getty Images, DELTA・道作
1971年のセ・リーグ
チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点差
読売 130 .574 538 434 104
中日 130 .520 437 425 12
大洋 130 .508 363 354 9
広島 130 .508 422 444 -22
阪神 130 .471 333 412 -79
ヤクルト 130 .419 427 451 -24
王貞治(読売)がこの年もwRAA63.4で1位。しかし前年から多くの球団が採用した低反発球の効果がついに王にも影響し、例年にない低い数字となった。確かに出塁率・長打率・wRAAの項目で1位は独占しているものの、このシーズン好調だった2位・長嶋茂雄(読売)との差は10を切り、かなり接近されてしまった。
2位の長嶋は当時史上初となる6回目の首位打者を獲得。長嶋は王に5本差と迫る34本塁打を放ち、勝利換算の値(※2)は5年ぶりに6を超えた。なお、前年に引き続きセ・リーグの3割打者は首位打者の1人だけ。パ・リーグの12人とは好対照となっている。打率10傑の2位は衣笠祥雄(広島)で.285だが、この打率での2位になることは珍しい。戦前にまでさかのぼらなくては同じ例はない。
その衣笠は打率以外の指標でも好成績を収め、wRAA42.2で3位に入った。衣笠のwRAAの推移を見ると、このあたりの年代が全盛期に当たるようだ。前年に低反発球の採用のせいか大きく成績を落としていたデーブ・ロバーツ(ヤクルト)は、対処に成功したのか、wRAA32.7と復活を見せた。ロバーツに引っ張られるようにヤクルトはこの年もリーグ最下位ではあるもののチーム状況が改善している。
ボールの話題でいうと、中日は低反発球使用をどこかで中止したか、対戦相手により使い分けた可能性があると見ている。ホームとビジターでの本塁打の頻度を比べると、ホームで極端に少なかった前年ほどの傾向は出ていないからだ。
6位藤田平(阪神)の28本塁打は驚きの数字である。藤田はこの時点まで出塁系の打者として活躍してきた。にもかかわらず、長打が出にくいはずのこの時代に唐突に多くの本塁打数を記録したからだ。ただ藤田はこれ以前にも2年連続でリーグ最多二塁打を記録するなど、長距離打者の片りんは見せていた。若手時代を過ごした年代がこの低反発球時代でなければ、福留孝介(阪神)や坂本勇人(読売)のような長打力もある好打者として認知されていた可能性があると考えている。
ベスト10圏外での注目打者は新人の若松勉(ヤクルト)。規定打席には到達しなかったものの、新人ながら.303の打率を残した。多くの打者が低反発球に苦しんだこのシーズンに、無名の新人が300打席を超えてこの結果を残したことはかなりのインパクトである。当時は北海道出身のプロ野球選手自体が極めて珍しく、さらにその選手が首位打者をとるとは想像もできなかった。
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
DELTA・道作
DELTA(@Deltagraphs)http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。