王貞治は48本塁打でも不調? セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1972年編~
2020/07/30
Getty Images, DELTA・道作
1972年のセ・リーグ
チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点差
読売 130 .587 587 492 95
阪神 130 .559 470 431 39
中日 130 .532 452 491 -39
ヤクルト 130 .472 530 543 -13
大洋 130 .452 481 523 -42
広島 130 .395 482 522 -40
飛ばないボールが使用された時代は終了し、リーグ全体の打撃成績はかなり標準的なものになってきている。
この年もwRAA1位は63.3を記録した王貞治(読売)。ほとんどの項目で例年のようにリーグ首位を独占した。しかし前年からの不振が尾を引いたのか、王としてはそれでもかなり控えめの数値となっている。2位には三村敏之(広島)。ほかの年では目立った成績は残していないが、この歳は.409と傑出した出塁率を記録した。当時NPB歴代2位となるシーズン19死球を記録している。
3位の衣笠祥雄(広島)は前年同様に各項目優秀な結果を並べ、リーグを代表しうる打者になりつつある。また、4位には初の首位打者を獲得した若松勉(ヤクルト)、6位に谷沢健一(中日)、7位には34本塁打を記録した田淵幸一(阪神)が新たにランクイン。世代交代の時期がきたことを感じさせる1年となった。代わって、長嶋茂雄(読売)と、実力者の山本一義(広島)はこの年が最後のランクインとなる。
ベスト10圏外で取り上げたのは荒川尭(ヤクルト)だ。ドラフトから紆余曲折を経て、ようやくレギュラーとなった2年目のこのシーズン、才能の高さを見せることとなった。規定打席不足ながらwOBAは田淵を上回る。入団前から有名であった若いスターとあって人気は爆発。当時では考えられないことではあったが、オールスターの人気投票では長嶋に迫るほどであった。
こうした人気には、現在に比べ三塁手が内野の花形的な扱いを受けていたことも寄与していたかもしれない。当時は、打球がどこに飛ぶかの傾向、守備システムも現在と異なっており、三塁手が特別な扱いとなっていた。団塊の世代の方であれば、草野球でやたらに三塁を守りたがる人が多かったことを覚えている人も多いのではないだろうか。その後、三塁手はそれほど守備力が高い選手が集まるポジションではなくなったが、それまでの野球人生で三塁を務めてきた選手がそのタイミングでコンバートされるわけではなく、一時的に三塁手が高身体能力の選手過剰となってしまったような時期もあった。
ただしここに詳細は記さないが「荒川事件」はすでに発生しており、荒川はのちにその後遺症のため球界を去ることになる。荒川がプレーした同時代にはクリート・ボイヤー(大洋)ら三塁に守備の名手がいたが、荒川の守備指標は彼らに劣らず優秀であった。打撃面でもリーグを代表する打者になり得たと思われるだけに、このようなキャリアとなったのは残念な結果である。
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
DELTA・道作
DELTA(@Deltagraphs)http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。