「年金制度を白紙に」日本の選手会ならではの決断と普及活動【事務局長・松原徹氏に聞く、日本プロ野球選手会の実態8】
2004年の球界再編問題の時に、日本のプロ野球選手会の存在を知った野球ファンの方は多くいるのではないだろうか。今回、ノンフィクションライターの田崎健太氏がプロ野球選手会事務局長の松原徹氏へ選手会、そして野球界の抱える様々な問題について取材を行った。6回目はストライキやFAに対して、選手会はどのようにとらえているのかを聞いた。
2015/07/22
日本のプロ野球選手会の特長
日本の年金制度は、右肩上がりの経済成長を念頭に設計されたものだった。しかし、その楽観的な予想は実現していない。そのため、早くから加入した人間は、自分たちが支払った積立金以上の金を受け取ることができるが、ある一定の年齢を分岐点として、それ以下の人間たちは積立金以下の金額しか将来支払われない。
年金の不公平である。そして日本政府はその問題を先送りしてきた。
制度が破綻している以上、全ての人間が満足する解決策は存在しない。必ず痛みを感じる人間が生じる。その人間の数を減らすることが、最善の解決策といえる。
その意味で選手会は、OBへの痛みはあったものの、日本のあちこちに埋まっている年金問題を先取りして〝解決〟したとも言える。
こうした動きをどう評価するか――。
ストライキを辞さず、常に闘ってきたメジャーリーグの選手会と比べると、プロ野球選手会を弱腰であると糾弾することは簡単である。
しかし、組合に対する考えが日本とアメリカと違っている。アメリカでは権利獲得のために組合がストライキを行うことに理解がある。日本の場合は、経営側と労働者の関係が良好な企業が多かったこともあるだろう、ストライキに対して嫌悪感を持たれることが多い。そのため、2004年の球界再編問題の際、会長だった古田敦也は、言葉を慎重に選んで民意を探ったことは記憶に新しい。安易にストライキを使い、野球を愛する人々の支持を失うことを古田は恐れたのだ。
メジャーリーグ選手会と違って、日本の選手会は普及に力を入れている。日本的な、柔らかな組織である。事務局長の松原はこう言う。
「メジャーリーグの選手会に学ぶことは多いです。しかし、同じことをやろうとは思わない。やるべきでもないと思っています」
プロ野球が抱える問題は、日本の社会、文化の特質と呼応している。だから、注意深く分析しなければ、真実は見えてこないのだ。(連載終わり)
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日本プロ野球選手会事務局長
松原徹(まつばら・とおる)
1957年5月、川崎市生まれ。1981年に神奈川大からロッテ・オリオンズ(現千葉ロッテ・マリーンズ)に球団職員として入団。一軍マネージャーなどを務めた後、1988年12月に選手会事務局へ。2000年4月から事務局長。2004年のプロ野球再編問題では、当時のプロ野球選手会の会長であった古田敦也らとともに日本野球機構側と交渉を行った。
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