バース来日、蓑田がトリプルスリー セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1983年編~
2020/09/01
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1983年のセ・リーグ
チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点
読売 130 .590 622 542 80
広島 130 .542 610 527 83
横浜大洋 130 .500 561 631 -70
阪神 130 .496 598 604 -6
中日 130 .439 563 603 -40
ヤクルト 130 .434 557 604 -47
この年は前年に成績を落とした山本浩二(広島)がwRAA38.9を記録しリーグ首位を奪還した。しかし、山本のトップはこれで最後。以後はベスト5にも届かず引退となる。これまでの山本は長打率で大きく傑出するなど、長打力を原動力としてリーグの首位に立ってきた。しかし、このシーズンの山本は本塁打王にはなっているものの長打率は2位、出塁率が1位。.425を記録した出塁率で他を突き放す、例年とは逆の傾向となっている。
この年は打撃タイトルが各打者に散らばったシーズンでもある。2位の原辰徳(読売)は103打点で打点王、3位真弓明信(阪神)は打率.353で首位打者、5位ランディ・バース(阪神)が公式表彰ではないが.612で最高長打率、6位大島康徳(中日)は山本と分け合って36本で本塁打王をそれぞれ獲得した。しかし、山本以外にwRAAで30点に達した選手はいない。平均から突出した選手が少なかった年なのだ。そのため、平均から極端に低いレベルの選手も少なくなり、各球団のレギュラーを見ても標準的な成績の選手が多くなっている。結果として、得点リーグ1位の読売で622点、最も少ないヤクルトで557点と、チーム単位でも大きな得点差は生まれなかった。
またこのシーズンには松本匡史(読売)が76盗塁のセ・リーグ記録を作っている。失敗はわずか16個であった。出塁数から考えると、異例の頻度で盗塁企図を繰り返していたようだ。そのような状況でこれほどの高い成功率は非常に価値が高い。また、このあたりの数年間はセ・リーグ全体でも盗塁が流行していた時期で、盗塁王の数字も一時的にはねあがっている。そのほかには駒田徳広(読売)がプロ初打席で満塁本塁打を放つという史上初の快挙を達成したのもこの年だ。
規定打席未到達組ではレジー・スミス(読売)が印象に残る。来日した外国人選手の中でも、MLBでの実績は最高レベルの選手だ。しかも一時的ではなく、長期間にわたってMLBで活躍しつづけた点においてほかの選手とは異なる。70年代末にはフジテレビで放映されていたMLB中継において、スター選手の1人として紹介されていた。特にワールドシリーズではレジー・ジャクソン率いるヤンキースに対し、迎え撃つLAの中心打者がこのスミスであった。この放送で見慣れた顔が日本のナイター中継画面に現れるのは少し奇妙な気分であった。
そんなスミスの日本でのプレーは、38歳と年齢を重ねていたため、休み休みの出場であった。しかし芯を食った打球は例外なく外野手が追わない本塁打となっていた。衰えたとはいえ野球の腕前は段違いであることを想像させられる瞬間は随所にあった。1打席あたりの得点貢献を示すwOBAは.430。これはセ・リーグ首位の山本を上回る数字であった。
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
DELTA・道作
DELTA(@Deltagraphs)http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。