ノーヒットピッチングの加藤を交代。抑え不在、答えのない投手起用法を考えてみる【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#129】
昨季よりショートスターターを導入しているファイターズ。その象徴ともいえるのが加藤貴之である。その加藤が好投した3日の楽天戦の投手交代のタイミングについて考えてみたい。
2020/09/05
今季ベストピッチの加藤を5回で交代
3日の楽天戦は本当に驚いた。5回投げて被安打0、失点0(51球)の先発・加藤貴之を下げてしまった。加藤のピッチングは今季ベストだった。好調イーグルス打線を寄せ付けない。唯一、走者を出したのが死球による出塁という「ノーヒットノーラン継続中」の状態だった。加藤はショートスターターでの起用が多い投手だが、この日は5イニング投げてるから既にショートスターターではない。
どうするのかなぁと興味津々だったのだ。前夜、ファイターズは抑えの秋吉亮が打ち込まれ、3点リードの勝ちゲームを失っていた。加藤の好投はそのイヤなムードを払拭する素晴らしいものだった。秋吉はこの日、登録を抹消されたからファイターズには抑えがいない。代役は宮西が果たしたけれど、つまり、1枚ずつ後ろが薄くなっていた。好投の先発投手は1イニングでも長く引っぱりたいところだ。
僕は「加藤が完封したら面白い」と軽口を叩いていた。相手がハナからショートスターターだろうと決めてかかってるところを、ウラをかいて完投完封。但し「ノーヒットノーラン」のことは軽口でも言えなかった。行けるところまで行ってリリーフだと思っていても、ジンクス(「口にすると逃げる」)はジンクスだ。
ふとこういう空想が頭をよぎった。プロ野球に限らず、投手というものが生涯たった一度、体調、バイオリズム、当日の気候、味方の好守、相手打線とのかみ合わせetc、そのすべてに恵まれてずば抜けたピッチングを披露する日があるとする。それは高校時代なのかもしれないし、技術を磨いた引退間際なのかもしれない。「生涯二度とないベストピッチ」だ。そのとき、完全試合やノーヒットノーランが達成される。本人もその日のことは「ゾーンに入っていて…」としか言えない。もう一度、再現しようとしても再現できないのだ。
加藤貴之の「その日」が今日だったらどうする?
オープナー業、ショートスターター業(?)の投手は「生涯二度とないベストピッチ」の日が気づかれにくいだろう。例えば1イニングを3球で終わらせて2番手に交代した場合、調子が良かったのかどうか観客にも伝わらない。もし、その日、彼が「9イニングを27球で終わらせる」星のもとにあったらどうするのか? その天運は誰にも気づかれず消えてしまう。何て残念なことだろう。
というのは空想でしかないが、まさかノーヒットで交代するとは思わなかった。これは評論家やファンの間で議論百出だなと思った。とにかく2番手村田以降のリリーフに頑張ってもらいたかった。前夜、上原健太の好投をリリーフで台なしにして、今日も同じだったら目も当てられない。幸い村田、玉井、宮西がビシッと完封リレーしてくれた。加藤には初勝利がついて、今季1勝1敗。
加藤の「ノーヒットノーラン」(?)はこうして夢と消えたわけだけど、せめて次の回、1本ヒットを許してからでもよかったんじゃないだろうかと思った。「加藤はショートスターターの投手」という先入観を取っ払って考えると、ノーヒッター継続中の先発投手をあっさり下げてしまうのは(ケガや故障でもなければ)かなり異様なことだ。