真弓、掛布、バース、岡田。阪神が超強力打線を形成 セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1985年編~
2020/09/07
Getty Images, DELTA・道作
1985年のセ・リーグ
チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点
阪神 130 .602 731 593 138
広島 130 .544 615 570 45
読売 130 .504 616 562 54
横浜大洋 130 .483 589 653 -64
中日 130 .479 537 596 -59
ヤクルト 130 .383 550 664 -114
1985年はパ・リーグだけでなくセ・リーグでも三冠王が生まれた。三冠王を獲得したのは、阪神のランディ・バース。ただし、セイバーメトリクスの視点で見た場合、バースが本当に恐ろしい打撃を見せるのはむしろ翌年の方である。落合同様にほぼすべての打撃指標でリーグ最高の値をマークした。ただ後述するが、出塁率に関しては棚ぼたの印象が強い。
バックスクリーン3連発など、すでに語られつくした感がある阪神が主役となった年だ。阪神はリーグ新記録となる219本塁打を放つなど、打力を武器に日本シリーズを制覇する。この年はwRAAランキング上位5人のうち4人(バース、岡田彰布、掛布雅之、真弓明信)が阪神の打者であった。
4人の平均長打率は.640。3~5番を務めたバース、掛布、岡田の3人が全員OPS(出塁率+長打率)で1.000超え。4人の合計本塁打は163に達した。ちなみにセ・リーグ誕生から1984年までの間にチーム本塁打が163を超えたチームが存在したのはわずか9シーズンにすぎない。それほどの本塁打数をわずか4人で放ったのである。この結果、この年の阪神は130試合制におけるリーグ最多記録となるシーズン731得点を挙げた。
この年のセ・リーグはパ・リーグ同様に打者優位な環境が進んでおり、パ・リーグの1050本に迫る947本塁打を記録。セ・リーグの方もパ・リーグと同様に翌年ストライクゾーンの運用が変更される。筆者から見て、長い歴史を誇る阪神の日本シリーズ制覇がこの年1回限りというのは少々不思議な事態である。
ちなみに、この年からセ・リーグもパ・リーグに合わせ、最高出塁率を連盟表彰とした。同時に算出式も犠飛を分母に入れる方式にマイナーチェンジしている。この年の最終戦は読売-阪神戦。試合前の時点で、出塁率で2位に9厘の大差をつけてトップだったのは吉村禎章(読売)。2位がバースであった。読売は優勝や順位争いにまったく関係がなかったこの試合に吉村を先発起用。フル出場させ4打席凡退を記録させてしまう。
一方のバースは王貞治のシーズン本塁打記録にあと1本と迫っていた。これをさせまいとしたか、読売投手陣は勝負を避け、バースは1打数1安打4四球で全打席出塁。結果、9厘の大差を1試合で大逆転させるという、タイトル争いという観点から見ると意味不明の采配を行ってしまった。首脳陣もこの連盟表彰を意識くらいはしていただろうに、吉村をフル出場させてしまったことは謎である。
ベスト10圏外での注目選手は宇野勝(中日)。40本塁打を放ったにもかかわらず、wRAAランキングではベスト10圏外となってしまった。打撃優位のシーズンらしい出来事である。ちなみにこれは日本人選手としては史上初のことであった。
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
DELTA・道作
DELTA(@Deltagraphs)http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。