伝説の「10.19」。セでは「ブンブン丸」池山隆寛が台頭 セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1988年編~
2020/09/16
Getty Images, DELTA・道作
1988年のセ・リーグ
チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点
中日 130 .632 549 483 66
読売 130 .535 518 442 76
広島 130 .512 447 442 5
横浜大洋 130 .468 514 542 -28
ヤクルト 130 .457 496 534 -38
阪神 130 .398 444 525 -81
このシーズンもwRAA45.7を記録した落合博満(中日)が1位となった。打撃3部門では無冠であるものの、得点を生むうえでより重要とされる出塁率と長打率で1位を占めている。打率は.293と規定打席に到達して初めて打率3割を切ったものの、wRAAの勝利換算(※2)では5.0。前年が4.8であったため、むしろ前年よりチームの勝利に貢献する打撃を見せていたことになる。
2位には原辰徳(読売)、3位にカルロス・ポンセ(横浜大洋)がランクイン。それぞれ.555、.565を記録した長打率が武器になっているが、出塁率は.382、.357とリーグを代表する強打者としては出塁率が少し低い。このことは2人の現役中一貫しており、それがセイバーメトリクス系のwRAAやwOBAでリーグ首位となることを妨げた。ポンセはこの年、33本塁打、102打点でタイトルを獲得。ただ30本塁打以上を放った打者は5人おり、3本差以内に5人がひしめいたタイトル争いは史上最大級の激戦であった。
リーグ全体としては打撃優位の傾向は収束してきている。リーグ総本塁打は684本と1985年に比べて257本の減少。リーグ総得点は670点減少して2968点となった。ベスト10のメンバーも数年前に猛威をふるった阪神勢が岡田彰布1人になったのに対して、Bクラス常連の横浜大洋から3人と、様相はかなり変わってきている。
また、この年はドーム球場開設元年でもある。屋内で行われる野球は当時非常に新鮮であった。また、今でこそはるかに大きい球場が多くなったが、東京ドームは当時のほかの球場に比べるとはっきりとサイズが大きくなっていた。広くなった球場に対応するため一塁線を破る三塁打がケアされていたほどである。当時はこの環境に外野手が対応できるか心配したが、それから数年も経たないうちに以前と同じような守備を見せることができていた。守備は意外と早く環境に適応するもののようである。1960年代と比べると、この頃は明らかに守備のレベルが変わってきたように感じていた。
ベスト10圏外での注目選手は正田耕三(広島)と池山隆寛(ヤクルト)を挙げる。正田は変わらず打率に特化したスペシャリストとして、.340で首位打者を獲得。池山はこの年ブレイクしたロングヒッターで、30本塁打を記録しており、正田との並びが面白い。
池山が登場したころは、玄人好みと言われるようなスタイルの遊撃手が幅を利かせていた時代だった。そんな中、打撃・守備ともにスケールが大きかった池山のプレーは大きなインパクトをもたらし、人気を博した。このシーズン開始前に発表された安部譲二氏のエッセイで、安部氏がその昔地方競馬の馬主だった頃、ブンブンマルという馬名で馬を走らせていた記述がある。池山の「ブンブン丸」の通り名はそれがヒントになっていたのかもしれない。
またこの年秋に2つのチームが身売りすることとなった。南海と阪急がそれである。1リーグ時代からの古参メンバーが身売りするというのはやはり衝撃的なものであった。南海に至っては、1950年代にさんざん優勝を争ったライバル西鉄が本拠地としていた福岡に移るということで、時代の変化を思い知らされたファンも多かったはずだ。さらに南海の場合はシーズン途中の発表であったため余計に衝撃も大きかった。オーナー会議で承認されるまで半月以上世間を騒がせたものだが、阪急の場合はその後、非常に唐突な発表であった。2チームのパ・リーグ制覇はそれぞれ10回ずつ。2リーグ制になって39年なのでこの両チームがパ・リーグ過半数の優勝を占めたことになる。ちなみに1リーグ時代に南海は2回の優勝がある(近畿グレートリング時代含む)。
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
DELTA・道作
DELTA(@Deltagraphs)http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。