「本塁クロスプレー」の“衝突”はもはや捕手の宿命である【里崎智也の里ズバッ! #07】
今季から野球解説者として各方面で活躍する里崎智也氏が、その経験に裏打ちされた自身の「捕手論」を語る好評連載。第7回のテーマは、その激しさゆえに物議を醸すこともしばしばある本塁クロスプレー。フェアかアンフェアか。賛否を二分する問題に当事者として斬りこみます。
2015/07/23
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“宿命”である以上、リスクを軽減する努力は必要
ただ、そうした議論が、野球の魅力につながるかどうかは、まったく別次元の話だ。
少し前に物議を醸した阪神・マートンの、ヤクルト・西田(明央)へのタックル(5月13日のヤクルト対阪神戦@神宮球場)にしたって、両者のあいだに過去の因縁があったからこそ、ことさら大きく騒がれただけのこと。
現にその翌日の中日対DeNA戦(@横浜スタジアム)では、DeNA・高城(俊人)が一歩間違えば、中日・ルナの突進をまともに食らっていたかもしれない“あわや”のプレーもあったのに、それはいっさい問題にはなっていないのだから、なにをかいわんや。
くだんのマートンの一件も、あれがもし重要な局面でのサヨナラの1点だったとしたら、マートンはその走塁を称賛され、逆に西田は一転して“戦犯”扱いをされていたに違いない。
裏をかえせば、そうした激しいクロスプレーが起こるのも、ひとえにそれが1点を争う緊迫した試合展開であればこそ。いくら「逃げない」と言っても、ボロ負けしている試合で僕らがわざわざ体を張ってブロックに行くことはないのだから、それもまた“醍醐味”のひとつとして、受け入れるのが正しい野球の見方と言えるだろう。
もっとも、経験者の立場からすれば、日々の実戦を通して、なるべく怪我をしないブロックの仕方を身につけることも、キャッチャーに求められるスキルのひとつではある。
僕自身がその場で踏んばらずに後ろに飛ぶことで、まともに衝撃を受けないようにしていたように、そこに介在する怪我のリスクを自分で軽減する努力も必要というわけだ。
もちろん、僕自身も2度骨折しているし、なかには、3塁側に逸れた返球を捕りにいった結果、運悪くランナーと交錯してしまうことだって当然ある(1度目は06年、楽天・リックとの本塁クロスプレー、2度目の13年は、まさにその後者。ソフトバンク・ラヘアとの交錯が原因だった)。
だが、それを怖がっているようでは、キャッチャーなど務まらない。プロとして生きていくためには、まずはその“宿命”を受け入れる“覚悟”を決めるところからがスタートなのである。
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里崎智也(さとざき・ともや)
1976年5月20日生まれ。徳島県鳴門市。鳴門工(現・鳴門渦潮高)、帝京大学を経て、98年のドラフト会議で、千葉ロッテマリーンズを逆指名(2位)して、入団。03年に78試合ながら打率3割をマークし、レギュラー定着の足がかりをつくる。05年は橋本将との併用ながらも、日本一に貢献。06年にはWBC日本代表として世界一にも輝いた。また、大舞台にもめっぽう強く、05年プレーオフのソフトバンク戦で馬原孝浩(現・オリックス)から打った、日本シリーズ進出を決める値千金の決勝タイムリーや、故障明けのぶっつけ本番で臨んだ10年のCSファーストステージ・西武戦での、初戦9回同点タイムリー、長田秀一郎(現・DeNA)から放った2戦目9回同点弾をはじめ、持ち前の勝負強さで数々の名シーンを演出。00年代の千葉ロッテを牽引した〝歌って、踊って、打ちまくる〟エンターテイナーとして、ファンからも熱烈に支持された。