渡邊諒の成長を証明した一打。単に『直球破壊王子、澤村の156キロを粉砕』の話にあらず【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#131】
クロ―ザー不在も響き、苦しい戦いが続くファイターズ。チームのCS進出は極めて厳しい状況だが、選手個々人の活躍は来季以降に繋がる。ロッテ20回戦での澤村拓一と渡邉諒の対決は特に見応えあった。
2020/10/03
「武芸者vs武芸者」の闘いは渡邉諒の勝ち
今季、ロッテ躍進の理由を外部招聘の優秀なコーチ陣と指摘する評論家が多いのだけど、そのコーチ陣が若手をうまく使い、伸ばしている。何しろ4番バッターを育てながら優勝争いしている稀有なチームだ。「トレード等で駒が揃った」という言い方もできるけれど、それだけじゃなく「駒」の多くは自前で育てている。そういうフレッシュさがチームに横溢している。
いちばんの例が和田康士朗だ。育成出身のスピードスター。この3連戦でグウの音も出なかったのは30日の第2戦、スコア0対1で迎えた7回表、2ベースで出塁した菅野剛士に代走和田が起用され、送りバントとスクイズで2点目を奪われたシーンだ。特にスクイズのときの和田の走りが圧巻だった。藤岡裕大のバントは捕手・清水優心の前に転がったのだが、清水が打球を処理する前に和田が本塁を陥れている(!)。もう何だかわからないスピードなのだ。よく言われるように今季、延長が10回までという特別ルールの下にあって、足で試合を決定づけられる「駒」は本当に貴重だ。今年のロッテはこうした「場面場面でハマる持ち駒」が豊富な気がする。
もっともファイターズに魅力がなかったのかといえばそんなことはない。同じ試合、8回裏、ロッテの看板スターにのし上がった剛腕・澤村拓一と、直球破壊王子・渡邉諒の対決は最高に見応えあった。渡邉諒は去年、きっかけを掴み、今年は中心選手に成長した。ひとことで言って「何とかする力がついてきた」のだ。この打席は目付けを下にして、澤村のフォーク(いわゆる「邪魔な球」)に引っかからないようにしつつ、まっすぐをファウルにするという待ち方だった。それで10球粘ったのだ。その粘り、読み、根くらべの妙。ついに156キロのストレートをレフト前に適時打である。あの試合は負けたけれど、「武芸者vs武芸者」の闘いは渡邉諒の勝ちだった。
新聞の見出しは「直球破壊王子 澤村の156キロを粉砕」みたいなことだ。今、それで売り出しているのだし、僕も異論はない。が、あのタイムリーは(本当いうと西武ギャレット打ちの名シーンも!)粘ったところがいいのだ。ファウル、ファウルで対決シーンが盛り上がり、そこに読みが働いたり意地が見え隠れしたり、つまり野球の濃厚なエッセンスた漂う。ああいう場数を多く踏むのは渡邉諒の経験値を上げる。いや、本当はもっと率直に「男を上げる」と書きたいくらいだ。ことは単に「直球に強い打者が156キロの直球を打った」という話ではない。「駆け引きして勝った」が本質だ。で、それは渡邉諒の明日、ファイターズの明日につながる。
ファイターズは単にロッテにやられただけじゃない。明日につながる闘いは色んな場所で起きている。それを見逃さないようにしたいのだ。
追記 ファイターズは続くソフトバンク3連戦も●スタート、それが球団通算5000敗ということになった。ちょっと小さい秋見つけてしまう10月初旬である…。