セの松井秀喜、パのイチロー時代到来 セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1996年編~
2020/10/15
Getty Images, DELTA・道作
1996年のセ・リーグ
チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点
読売 130 .592 563 478 85
中日 130 .554 641 589 52
広島 130 .546 670 597 73
ヤクルト 130 .469 536 560 -24
横浜 130 .423 571 660 -89
阪神 130 .415 482 579 -97
松井秀喜(読売)がwRAA44.7を記録し、初の首位となった。ただしこの年はまだ歴史的な強打者というほどではなく、長打率など含め、リーグ首位となった項目はない。まったく対処できないほどの強打を発揮するのは、これからまだ4年ほど後のことである。
2位に入ったのがこの4年ほど上位を占めてきた江藤智(広島)。この年の江藤は欠場が多かったため、打席が多い打者ほど有利になる積み上げ式の指標であるwRAAでは松井に一歩譲ったものの、wOBAでは堂々の首位である。両リーグ揃ってwOBAの首位とwRAAの首位が異なるのは初めてのことであった。江藤は出塁率.431でも後続を千切った1位となっており、長打力に強みのあるスタイルだった例年とはやや毛色の変わった1年だったようだ。
3位山崎武司(中日)は39本で本塁打王を獲得したほか、長打率.625でもリーグ1位。wRAA、wOBA、長打率でリーグ1位の打者がそれぞれ異なるシーズンというのも珍しく、スラッガーが多くの球団に分散している点でにぎやかに感じる。
ほかにはこのシーズンは本塁打王に1本差と迫った大豊泰昭(中日)が4位に。いよいよ本領を発揮してきた金本知憲(広島)が5位に。3年連続首位打者を獲得したアロンゾ・パウエル(中日)が6位に。年齢を重ねてもベスト10からは外れない落合博満(読売)が7位にと、個人的には見どころの多いベスト10であった。
6位パウエルが42二塁打、8位立浪和義が39二塁打と、中日勢が意外な長打力を記録した。セ・リーグで過去17年間にマークされた最多二塁打が37本だったのでやや異常な結果である。また、中日は別の2人(山崎・大豊)が本塁打1・2位を占め、さらにこの年5人をベスト10に送り込んだ。このことから球団が高反発球を採用していたのかと考えたが、本拠地球場ごとの打撃成績の残しやすさを示すパークファクターに異常はなかった。単なる結果の偏りのようである。ただこのような状況でも江藤・金本らを擁する広島の方が総得点は多く、広島打線の高い能力をうかがわせる。
このようにこの年は好成績の打者が多かった。これにより109打点で打点王となったルイス・ロペス(広島)が割を食ってベスト10圏外となっている。ロペスは2年連続打点王など6年間中心打者として日本で活躍。積極的に打って出るタイプであるため、四球も三振も必然的に少なかった。
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
DELTA・道作
DELTA(@Deltagraphs)http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。