【データで選出10・11月月間MVP】リーグ優勝を決めた両球団の主砲が最高評価。投手は楽天・岸が見事な復活劇
2020/11/17
DELTA、Getty Images
11月18日に大樹生命月間MVP賞が発表される。それに先立ちデータに主眼を置いた別角度からの評価で、10・11月に最も大きな貢献を果たしていた選手をチェックしたい。
月間最多勝利のソフトバンク野手が上位にずらり
評価には(1)セイバーメトリクスの一手法を用いて選手のはたらきを得点換算し、(2)同じ出場機会を「平均的な成績の選手」が担った場合のはたらき(得点)を基準(=0)に置き、どれだけ上積みをつくったかという推定値を算出して行った。「平均的な成績に対して大きな差をつくり」、また「その状態で多くの出場機会を重ねていく」ことで増えていく数値なので、質と量、両面での貢献を見ることとなる。図中の[]で囲んだ項目でグラフが右に伸びているものはリーグ平均以上、左に伸びているものは平均以下だった数値だ。
まずは野手から見ていく。セ・リーグは丸佳浩(巨人)、パ・リーグは柳田悠岐(ソフトバンク)がそれぞれ16.2点、14.6点と最高の貢献を果たした。丸は10月6日からのDeNA3連戦で3試合連続本塁打を放つなど、10・11月で12球団最多の10本塁打を記録。通算200本塁打の大台に到達し、チームの優勝に花を添えた。丸の打撃は、平均的な打者と比較して11.5点多くチームの得点を増やしたと評価できる。
パ・リーグでは、柳田に加え、周東佑京、牧原大成、栗原陵矢と4人のソフトバンク勢がランクインした。柳田の打撃貢献は図抜けているが、それ以外の3選手もそれぞれ打撃面でリーグ平均を上回るはたらきを見せている。13試合連続盗塁成功の日本記録を樹立した周東は、走塁でも素晴らしいはたらきを見せたが、10・11月については打撃貢献のほうが大きかったようだ。
ソフトバンクは10月、27試合で22勝をあげ、月別勝利記録のNPB新記録を樹立。その快進撃を支えた要因の一つは、こうした野手陣の好調であることは間違いないだろう。
打撃不振を十二分に補った源田の守備力
守備評価には同じイニングを守った平均的な同ポジション選手と比較してどれだけ失点を防いだかを表すUZR(Ultimate Zone Rating)を使用する。しかしUZRは同ポジションの選手との守備を比較する指標であるため、今回のように異なるポジションの選手を比較する際は、ポジション間の補正を行う必要がある。一般的に高い守備力、もしくは独自性のあるスキルを要するポジション(遊撃手や二塁手、捕手など)を守った選手はプラスに補正をかけ、その逆のポジション(一塁手や左翼手など)はマイナスの補正をかけるといった具合だ。この守備位置補正をUZRに加えたものが守備貢献となる。
守備では、源田壮亮(西武)が9月に続き、2ヶ月連続で最高の貢献を残した。源田の守備は平均的な野手に比べ、月間で10.9点多く失点を防いだと評価されている。10・11月の源田は打撃面で不調に苦しみ、打撃では平均的な野手に比べ3.0点チームの得点を減らしてしまった。しかし、守備ではほかの選手に大きく差をつける貢献を記録。2位以下に大差をつけた。
また、セ・リーグでは、坂本勇人(巨人)が最高の貢献を記録した。10・11月は歴代2位の若さで2000本安打を達成した打撃面が注目された。しかし、坂本の素晴らしさは打撃だけでない。守備面でも高い貢献を残せることが、坂本の選手としての価値をさらに高めている。
前半戦に苦しんだ岸と九里が出遅れを取り戻す
投手の評価も質と量両面でどれだけ貢献したかから求める。質は「奪三振」、「与四死球」、「被本塁打」、「ゴロかフライかライナーかといった打たれた打球の種別」、量は「投球回」によって決まり、そこから平均的な投手と比較しどれだけ多くの失点を防いだかを算出する。
投手ではパ・リーグは岸孝之(楽天)、セ・リーグは九里亜蓮(広島)がともに10.9点と最高の貢献を残した。岸は怪我で開幕から大きく出遅れ、九里はシーズン序盤、不調に苦しんだ投手だ。ともにシーズン終盤に調子を上げ、今季初のランクインでトップ評価を得ている。
岸の防御率は1.38、九里の防御率は1.29と、非常に優秀な数字だ。しかし、10・11月はそれをはるかに上回る防御率を残した投手がいた。千賀滉大(ソフトバンク)はなんと防御率0.00。10・11月で34回1/3を投げ、1点も自責点を許さなかった。また、森下暢仁(広島)は37回を投げて自責点1。防御率0.24を記録し、新人王をほぼ確実なものとした。
だが、それでも九里や岸の貢献が上回った理由には投球回の多さがある。九里と岸はほかの投手よりも多い6度の先発機会に恵まれ、それぞれ49回、45回2/3と非常に多くのイニングを投げた。質の面でもさることながら、それ以上に量の面による貢献がものを言ったかたちだ。ほかには東浜巨(ソフトバンク)も45回1/3と長い多くのイニングを消化している。
ほかの指標にも目を向けよう。青柳晃洋(阪神)は10・11月、平均が50%弱となるゴロ率で66.3%を記録。発生した打球のうち約3分の2をゴロにした。ゴロは長打になりにくいため、フライやライナーに比べ得点につながりにくい。より多く得点につながりにくい打球を打たせることで、高い貢献を残した。ほかには西勇輝(阪神)、森下、ドリュー・バーヘイゲン(日本ハム)も高いゴロ率を記録している。
DELTA(@Deltagraphs)http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。
【バックナンバーに戻る】