内野手の送球は「シュート回転」が良い理由。名手・川相昌弘氏が語る技術論
プロ野球春季キャンプが2月1日から、宮崎と沖縄で一斉に開始する。阪神タイガースでは、元巨人・中日で現在は評論家としても活躍する“バントの神様”川相昌弘氏が臨時コーチを務めることで話題となっている。今回は川相氏の著書『ベースボールインテリジェンス』から、12月7日に公開した技術論、指導論を再掲載する。同氏のコーチングを受けるつもりで一読すると、より深く野球を知るきっかけとなるかもしれない。
2021/01/28
指導者の立場から見る送球難の理由
コーチの立場を経験してみてわかったことだが、腕の使い方を直すのは非常に難しい。本人の感覚が重視されるところでもあるので、あまりに細かいことを言いすぎると、投げることそのものに悩み、「イップス」のようになる選手もいる。だから、指導する場合は、上ではなく、下の使い方をアドバイスするようにしていた。キャッチボールである程度の球を投げられているのに、内野手のスローイングになると送球が乱れる選手は、軸足に重心を乗せた状態で捕球できていないことがほとんどである。左足のほうに頭が突っ込んだ状態で捕るため、そこからの体重移動がスムーズにできず、腕の力に頼った投げ方になってしまうのだ。それに、前足のヒザを突っ張って投げるような選手も、悪送球の確率が高くなる。
腕の使い方を技術的に紐解いていくと、スローイングが安定している選手に共通するのは、右足に体重を乗せて、右手の甲が上を向いた状態でトップを作っていることだ。甲が上を向いているということは、腕を内側に捻っていることになる。ここから体の回転によって、ヒジが前に出て、腕が振られていく。不安定な選手は右足への乗りが浅く、トップのときにすでに手のひらが上を向き、ヒジが返ろうとしている。言い換えれば、捻りがほどけた状態だ。これでは体を回転させても、下からの力を上に伝えていくことができない。
指導の経験上、トップの形が改善されれば、スローイングもよくなっていきやすい。逆に言えば、トップの形がいつもバラバラであれば、スローイングも乱れていく。このとき、「ヒジを上げるように」という教えもあるが、上げようと思うほど、肩回りに力が入り、窮屈になる。腕を少し内側に捻りながらトップを作ろうと思えば、自然に手の甲が上を向くはずだ。過度に、ヒジを上げようと意識する必要はないだろう。
書籍情報
【現役選手、指導者へ贈る野球 IQ 向上メソッド】
ベースボールインテリジェンス 実践と復習の反復で「頭を整理する」
(著者:川相昌弘(元読売ジャイアンツ、中日ドラゴンズ)/四六判/272頁/定価1700 円+税)2020年12月7日発売
【本人による実技写真解説】
通算犠打数533は世界記録。ゴールデングラブ賞6回受賞。プロ野球人生で書き綴ったノートを基に、技術論・指導論を体系化。平凡な私がプロで生き残れた理由がこの本に詰まっている。
「頭を整理して、グラウンドで戦えるか」。
教わったこと学んだことをイチ早く吸収していくには、一度言われたことをしっかりと覚えておかなければいけない。漠然と練習をしているだけでは、技術も上がらなければ、戦術の理解度も上がっていかない。ひとつひとつのプレーや動きに、どれだけ根拠を持つことができるか。良かったことも悪かったことも自分の言葉で説明できるようにならなければ、本当の意味で理解したとは言えない。理解がなければ、上達にはつながっていかない。
本書は、心/守備(基本)/守備(連携)/バント/打撃/走塁の6つの構成から成る。いずれも、野球ノートに記してきた技術論や精神論をもとに、各分野を極めるためのポイントを詳細に記した。
【目次】
第1章 心の持ち方
第2章 守備(基礎)編
第3章 守備(連携)編
第4章 犠打編
第5章 打撃編
第6章 走塁編
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「BASEBALL INTELLIGENCE ベースボールインテリジェンス 実践
と復習の反復で「頭を整理する」」
川相昌弘(かわい・まさひろ)
1964年9月27日、岡山県出身。岡山南高では投手としてチームをけん引、甲子園に春夏計2回出場した。1982年のドラフト会議で読売ジャイアンツから4位指名を受け、内野手として入団した。選手層の厚いチームにおいて、守備力とバントで存在感を示すと、藤田元司氏が監督に就任した1989年に、レギュラーを奪取。以降、ジャイアンツの2番・ショートとして中軸のつなぎ役として活躍した。2004年から巨人でも一緒にプレーした落合博満監督率いる中日ドラゴンズへ移籍、新天地でも貴重な戦力として重宝された。2006年に現役引退後は中日・巨人のコーチを歴任。現在は野球解説者を務めている。