マット・マートン、西岡剛が200本安打を達成 セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~2010年編~
2020/12/10
Getty Images, DELTA・道作
2010年のセ・リーグ
チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点
中日 144 .560 539 521 18
阪神 144 .553 740 640 100
読売 144 .552 711 617 94
ヤクルト 144 .514 617 621 -4
広島 144 .408 596 737 -141
横浜 144 .336 521 743 -222
阪神、読売との激しい優勝争いを、最少失点の中日が制した。1位から3位まではわずか1ゲーム差という大混戦であった。中日は失点阻止能力では圧倒的だったが、得点は最多の阪神より200点以上も少ない。能力の偏ったチームだったが、得点の入りにくい球場をうまく活かすことができたようだ。
この年は和田一浩(中日)が自己最高のwRAA 55.0をマークし、自身初のリーグトップとなった。打撃3部門でトップとなった項目はなかったが、ほとんどの項目で優秀なスタッツを記録している。出塁率.437、長打率.624、wOBAも.448で1位となるなど、総合的な打撃指標では圧倒的で、2位に大差をつけての1位となった。
2位は青木宣親(ヤクルト)。青木はこの頃上位の常連となっていたが、この年は打率.358で首位打者を獲得するなど特に好調で、wRAAにおいて自身初めて40点のラインをクリアした。
読売からは、3位阿部慎之助、4位小笠原道大、6位アレックス・ラミレスと3人がランクイン。このうちラミレスは打率.304、49本塁打、129打点で本塁打・打点の二冠王に輝いているが、wRAAではそれほど数字を伸ばすことができていない。四球獲得の面で弱点があったためだ。ラミレスはキャリアを通して、旧来型の指標から想像されるほどwRAAが伸びないシーズンが多く、引退までリーグ1位を獲得することはなかった。
そしてこの年、読売以上となる740得点を記録したのが阪神である。マット・マートンはイチローの記録を破り当時のNPB記録となるシーズン214安打を記録。マートンを筆頭に、4選手が7-10位を占拠している。また遊撃の鳥谷敬は10位、捕手の城島健司は11位、二塁の平野恵一は15位となっている。一般的にセンターラインは守備力の高い選手が守るポジションである。こういった選手がこのランキングに食い込むことは稀だが、阪神は15位以内にセンターラインの選手を多く送り込んだ。守備的ポジションに強力な打者が配備できた場合、強力打線は形成されやすくなる。そういう意味でベスト10圏外選手としてこれら選手を取り上げた。城島、平野はそれほど四球をとれるタイプの選手ではないが、wRAAは十分に大きな数値を示している。
このシーズンはセ・リーグの総本塁打が863本、1試合平均得点が4.31点であった。比較的得点が入りやすいシーズンではあったが、1970-80年代における代表的な打者優位シーズンから比べると本塁打は200本ほど少ない。1985年のパと比べて得点は20%、1977年のセと比べても8%少ない。投打のバランスが崩れるほど打撃優位になったとまでは言えない状態であった。しかし、NPBは翌年から歴史的に見ても例を見ない低反発球へのシフトを選択する。
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
DELTA・道作
DELTA(@Deltagraphs)http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。