中村剛也の48発はバレンティンの60発以上の価値? セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~2011年編~
2020/12/13
DELTA・道作
2011年のセ・リーグ
チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点
中日 144 .560 419 410 9
ヤクルト 144 .543 484 504 -20
読売 144 .534 471 417 54
阪神 144 .493 482 443 39
広島 144 .441 439 496 -57
横浜 144 .353 423 587 -164
この年1位となったのは長野久義(読売)である。前年に新人王を獲得して実力の片りんを見せた長野だったが、この年は打率.316で首位打者を獲得。リーグ全体の本塁打が伸びない中で17本塁打を記録するなど長打力も見せ、総合評価wOBA.367も首位であった。
2位の畠山和洋(ヤクルト)は出塁率で3位、長打率で4位の好成績。打率.269、23本塁打、85打点という打撃3部門の数字からは想像できない好順位をマークしている。2008年以来2度目の規定打席到達で初のベスト10入りとなった。3位は鳥谷敬(阪神)。初のトップ3入りである。この年は5本塁打ながら、出塁率.395で最高出塁率をマーク。鳥谷はもともと長打が多くなく出塁に強みをもつ打者だったため、低反発球の導入により成績がさほど落ちず、相対的なランクを上げた。ボール変更は鳥谷にとっては好都合だった可能性もある。
5位マット・マートン(阪神)は180本で最多安打を獲得。6位バレンティンは31本で本塁打王、10位新井貴浩(阪神)は93打点で打点王を獲得している。バレンティンの打率は.228。規定打席到達者中、最低打率での本塁打王で、これは1974年のクラレンス・ジョーンズ(近鉄)、1987年ランス(広島)以来3人目の記録であった。
ベスト10圏外の注目打者では規定打席に9だけ不足した阿部慎之助(読売)である。打撃好調であった阿部はランキング首位の長野を上回るwOBA.374を記録。さらに阿部は長打率も.500の好値をマーク。「規定打席への不足分を打数として加算してなお最高の長打率となった場合は最高長打率打者とする」特例に該当し、最高長打率となっている。これは2003年のロベルト・ペタジーニ(読売)に続く史上2人目のことである。
ボールが変わったこともあり、ベスト10全体の印象も前年までとはガラリと変わったように見える。1位から3位のwOBAがいずれも.360台というのは2リーグ制以後のセ・リーグ61年間で最も低い記録であった。シーズン前に予想していたらこの1~3位のメンバーは間違いなく当てられないだろう。
チームに目を向けると、中日が得点・失点ともにリーグ最少という珍しいかたちで優勝。得失点差はわずか9だった。
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
DELTA・道作
DELTA(@Deltagraphs)http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。