阿部慎之助が圧倒。坂本勇人が初タイトルを獲得 セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~2012年編~
2020/12/16
Getty Images, DELTA・道作
2012年のセ・リーグ
チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点
読売 144 .667 534 354 180
中日 144 .586 423 405 18
ヤクルト 144 .511 499 514 -15
広島 144 .462 427 454 -27
阪神 144 .423 411 438 -27
DeNA 144 .351 422 571 -149
阿部慎之助(読売)がリーグを席巻したシーズンとなった。wRAA、wOBA、長打率、出塁率はすべて大差での1位。打撃三冠では打率・打点もこれまた大差での1位となった。wRAAを勝利の単位に換算した値(※2)の6.7は、セ・リーグでは2006年福留孝介(中日)以来の数字。阿部1人がいる・いないで優勝を左右できるレベルの影響力であった。捕手としての長打率1位は1939年に年間1シーズン制になって以降、NPB史上3人目。阿部はこのシーズンで3回目の最高長打率であるが、これは捕手として史上最多となる。また、意外なことに、捕手の出塁率1位はNPB創設77年目にして阿部が初めての達成である。
2位にはバランスの取れた強打を披露したラスティングス・ミレッジ(ヤクルト)が入った。3割、20本塁打をクリアしたが、双方をクリアできた打者はパ・リーグには皆無だったため、この打者不利の時代としてはかなり優れた打撃だったと考えられる。3-4位には長野久義、坂本勇人の読売勢がランクインこの2人はともに173安打で並びの最多安打となっている。
6位はこの年からDeNAに移籍したアレックス・ラミレス。この年は四球の獲得がわずか18個にとどまった。セ・リーグでは1969年江尻亨(大洋)以来43年ぶりの20四球未満でのベスト10入りとなっている。逆に7位の鳥谷敬(阪神)はリーグ最多の94四球を記録。この四球獲得能力がベスト10入りの主因となった。8位の大島洋平(中日)は最多安打にあと1本と迫る172安打を記録。ただ一方で打点はわずか13に留まり、規定到達者としては2リーグ制以降最少の12打点に迫る怪記録をマークしている。
ベスト10圏外での選手は規定打席にわずかに届かなかったウラディミール・バレンティン(ヤクルト)。規定打席未到達で本塁打王という2リーグ制以降では初の記録を達成。この記録の第1号は1936年の藤村富美男(タイガース)である。ほかに1943年に2名の選手が同様の記録を残したが、当時は試合も本塁打も少なく、現代とは同列に考えられない時代のことであった。前年も規定打席到達者の中で最低打率での本塁打王と、レア記録を続けて残したバレンティンであったが、この翌年極めつきのレア記録を生み出すことになる。
チームに目を向けると、ランキング上位4人のうち3人を固めた読売が圧勝。攻撃だけでなく失点抑止能力も傑出しており、失点はわずか354点に抑えた。前年のソフトバンクに続き、記録的な失点の少なさであった。
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
DELTA・道作
DELTA(@Deltagraphs)http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。