川上哲治、水原茂。巨人が超強力打線を構築 セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1941-42年編~
2021/02/08
Getty Images, DELTA・道作
1941年のNPB
チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点
巨人 86 .738 357 193 164
阪急 85 .631 251 204 47
大洋 87 .560 204 170 34
南海 84 .512 217 214 3
阪神 84 .488 190 199 -9
名古屋 84 .440 197 217 -20
黒鷲 85 .333 188 310 -122
朝日 85 .298 197 294 -97
巨人勢がベスト10の1位から5位に並んだほか、7位と10位にもランクインしている。357得点は得点2位となった阪急のなんと1.42倍。各球団85試合前後と現代に比べると試合数が少ないシーズンで、9ゲーム差の優勝を遂げた。この頃はボールの材質もかなり粗悪になってきたようで、リーグ打率.201長打率は.248と、現代では考えられないような成績になっている。ただそんな状況の中でも川上哲治(巨人)の打撃だけは別格だったようでwRAA37.0で1位を獲得。ほかにも、打率、打点、得点、安打、単打、二塁打、三塁打、そして1打席あたりの得点貢献を表すwOBA(※3)ときわめて多くの項目でリーグ1位となっている。川上はこのシーズンを最後に軍隊に招集された。
2位の水原茂(巨人)は71個と最多四球をマークして自己最高の2位にランクイン。この頃はNPB全体で四球がかなり多くなっている。ベスト10の中で川上と中島を除く8人の出塁率-打率が1割を超えていた。特に8位の中村信一(大洋)は打率.218に対して出塁率が.390でリーグ2位と、四球が多いこの時代らしい活躍を見せている。1950年以降にはほぼ絶滅した規定打席に到達しながら四球数>安打数となった打者が、このシーズンは中村を含め6人を数えた。
この年は、規定投球回に達して防御率0点台と1点台の投手だけで13人。1試合当たりの平均得点は2.65点。かなり試合展開が動きにくいシーズンになっている。こうした投手優位が進んだ結果、リーグ三塁打が108本、本塁打がちょうど100本、長打合計が757本となった。2019年パ・リーグの総本塁打だけで851だったことを考えれば隔世の感がある。
また規定打席に達した57人のうち44人が1ケタ二塁打に留まっている。安打数に占める単打の割合が83.2%と、ヒットを打たれてもほぼ単打の状態である。にもかかわらず打席に占める四球割合は11.8%。ちなみに2020年のセ・リーグは8.6%だった。最も多かった1938年春の12.8%からすると改善はされているものの、当時の打者の長打力が乏しかったことを考えると、あまりにも四球が多すぎる。ストライクを取ることは現代に比べやや困難な時代だったということになる。これに対して打席に占める三振の割合はわずか約8%。現代のそれが約20%であることを考えると、スタッツからも時代を感じられる。
ベスト10圏外の注目選手は31位の服部受弘(名古屋)。8本塁打を放っての本塁打王だが、打率はわずか.194。本塁打王史上最低打率となった。これは捕手として2人目の本塁打王だったが、なんと戦後は投手に転向。コンバートされる場合、投手から捕手へのパターンは多くあったが、服部はその多数派とは逆ルートのコンバートとなった。その後も数多くのポジションを守りつつ二刀流は断続的に続き、1955年まで投手・野手双方の出場がある。二刀流のユーティリティはすごい。