環境悪化によりゴロ打ちが有効になる時代に セイバーメトリクスの視点で過去の打撃ベスト10を振り返ろう ~1943-44年編~
2021/02/11
Getty Images, DELTA・道作
1944年のNPB
チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点
阪神 35 .818 165 81 84
巨人 35 .576 128 104 24
阪急 35 .559 137 116 21
産業 35 .382 81 152 -71
朝日 35 .353 115 132 -17
近畿日本 35 .324 85 126 -41
終戦前最後のシーズンで、開催試合は各チームわずか35試合であった。確かにリーグ戦としては試合数が少なく、揺らぎの大きなシーズンであるかもしれないが、この時代にリーグ戦を完遂できたことはそれだけで賞賛に値する。翌1945年は書籍『傷だらけの1頁』など多くの書物で語られているように、多少は余裕があるかに思われた米球界ですら相当な困難を抱えた1年であった。隻腕大リーガーのピート・グレイの活躍もこの頃のことである。
この時代の打者はゴロ打ちが推奨されており、それは当時の低い内野守備力から考えて、必ずしも非合理なものではなかった。特にこのシーズンはボールの品質、用具、グラウンドコンディションも悪く、例年以上にゴロがアウトになりにくかったようで、リーグ全体の打撃成績は向上している。
このシーズンの1位は黒沢敏夫(巨人)。打撃三冠は獲得していないが、wRAAのほかにも出塁率、長打率、wOBAで1位を占めた。3位の岡村俊昭(近畿)は.369と高い打率での首位打者を獲得したものの四球が少なく、出塁率は.400と打率から想像されるほどには伸びていない。4位の藤村富美男(阪神)は前年に戦地から帰還し、この年は25打点で打点王を獲得している。
また大投手の藤本英雄(巨人)が規定打席にも達して7位なのは、投手と野手が完全に分けられていない時代を感じさせる。なお、6位に入った呉新亨(巨人)は前年まで2年連続1位の呉昌征(この年は阪神所属)とは別人である。同じようにスピード豊かな選手であったが諸般の事情から昌征の方はこの年規定に達していない。偶然だが2人の呉は、19盗塁で並びの盗塁王となっている。昌征はわずか20試合の出場で19盗塁を記録した。
ベスト10圏外の選手では金山次郎(産業)に注目する。.244と打率が伸びず、二塁打が少なかったためベスト10には届かない11位であったが、3本塁打で本塁打王を獲得した。このシーズンはベスト10全員の本塁打を合計しても2本。リーグ全体で23本の中での3本塁打であった。「リーグ全体の本塁打のうちのどれだけ本塁打を占有したか」という観点では、211本塁打中20本を占めた1946年の大下弘(東急)や454本塁打中48本を占めた2011年の中村剛也(西武)が代表的だが、実はこの年の金山が13.0%と史上最高の数字となる。
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
DELTA・道作
DELTA(@Deltagraphs)http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。