セイバーメトリクスの視点で見るNPB歴代最強打者ランキング ~1位-3位~
2021/02/21
Getty Images, DELTA・道作
3位:長嶋茂雄(1958-1974年)
wRAA通算:678.2 ベスト5シーズン:2位 ベスト10シーズン:2位
3位はwRAA678.2を記録した長嶋茂雄となった。長嶋については、張本とは逆に歴代上位の強打者の中では衰えがやや早かった印象がある。代わりに全盛期のピークの高さは出色で、ベスト5シーズン、10シーズンの累計ではともに王に次ぐ歴代2位を占めている。
長嶋というと数々の逸話に彩られたことから、勝負強い、華があるという印象があるだろう。しかし、セイバーメトリクスの視点で総合打撃指標、守備指標Relative Range Factor (※3)を振り返ると、シンプルに能力が極めて高い選手像が浮かび上がる。これだけ圧倒的な打撃貢献を残していれば、重要な打席で好結果を残すことも多かっただろう。勝負強いといった評は後付けの色彩が強いと考えている。
長嶋は打率・本塁打・打点といったクラシックな打撃指標で見た場合、歴代の強打者の中では傑出しているわけではない。長嶋の引退直後には飛ぶボールによる打撃上位時代が訪れ、打撃三部門において長嶋を上回る打者が多く登場した。後年のファンにとっては、長嶋の果たした決定的な役割と、打撃三部門で特別に傑出はしていないことのギャップが埋められず、「特別に勝負強い」という評価が一般的になったのではないだろうか。
ちなみに長嶋のプロ12年目にあたる1969年の年俸は4000万円ほどと報道されていた。当時のレートで10万ドル強。この年は王の年俸も長嶋と同レベルだった。しかし当時はMLBにも10万ドルプレーヤーは10人ほどしか存在しなかった。安く感じられるかもしれないが当時はそんなものである。おそらく最高年俸と思われるウィリー・メイズとボブ・ギブソンでも12万ドル台(※4)。ハンク・アーロンで9万2500ドル、前年引退のミッキーマントルは最高年で10万ドルだったので、ほかの選手は推して知るべしである。当時の読売にはMLB 最高年俸レベルの2人が同時に在籍していたことになる。
また長嶋が活躍した年代は新メディアであるテレビが隆盛を迎える時期であった。長嶋プロ入りの翌年に皇太子ご成婚で30%に乗ったテレビ受像機普及率は、東京五輪までの間に90%に迫ったが、この間ちょうど全盛期の長嶋は時代の波に乗った。野球場の数百倍の人間が家でプロ野球を見るという習慣が全国に根付き、テレビとプロ野球が共に成長した時期である。このような事情は現代において再現されていない。長嶋型のスーパースターを次に見られるのは、未知のメディアが生まれる時期なのかもしれない。
(※2)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指
(※3)Relative Range Factor::9イニングあたりの刺殺・補殺の数によって野手の守備力を評価するRange Factorを発展させた指標。一般的な野球の記録から算出することができるため、過去の野手の守備を評価する際に用いられることが多い。
(※4)MLBの年俸は米データサイト・Baseball Referenceを参照。
DELTA・道作
DELTA(@Deltagraphs)http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。