安定的な収益確保に必要な、スタジアムの運営【前日本ハム球団社長・藤井純一氏#5】
現在、日本のプロ野球界で実に効率的なチーム作りをしているのが北海道日本ハムファイターズである。東京から北海道へ移り、地域密着に成功した球団の土台を築いた一人が藤井純一前球団社長だ。これまでの藤井氏の話を聞くと、「負けない」ファイターズ、「集客力のある」ファイターズの土壌が見えてくる。
2015/08/22
黒字になったが……
筆者が初めて藤井に話を聞いたのは、2008年5月のことだった。
前年度、ファイターズは13億円の黒字を出していた。数十億円単位での赤字が当たり前だったパシフィックリーグの中では異例のことだった。
しかし、藤井は「あぶく銭ですよ」と素っ気なかった。
「それよりも黒字を出したことで頭に来たことがあったんですよ」
と渋い顔をした。
地元紙が今シーズンから指定席の料金を値上げしたことについて「ファンサービスは還元から」という記事を載せたという。黒字を出しているのに、値上げすることはいかがなものかという主旨だった。
この記事を読んだ藤井は激怒した。確かに指定席は200円、場所によっては300円値上げしている。ただ、平日は値下げしていた。金曜日などは半額で入れる日もある。そもそも他スタジアムの指定席に比べると高くない。
怒りをぶつけるのも大人げない。藤井は数日間我慢をしたが、考えれば考えるほど怒りは収まらなかった。報道は自由であるべきだ。広報担当は藤井の様子を見かね、「そこまで我慢するならば、直接話してみましょう」と二人で新聞社に出かけることにした。
藤井は新聞社でこう話した。
「どれだけ社員が汗を掻いて頑張っているのか、きちんと取材して書いてくれるならばいい。ただ一部の数字だけを見て書くのは納得がいかない。値上げは将来を睨んでの選択である。これだけ北海道の人に愛されているのだから、我々はチームをきちんと残す義務がある」
確かに、ファイターズの黒字はある程度までは必然であったが、それ以上は偶然だったといえる。
13億の黒字のうち、レギュラーシーズンでの黒字は1億を越える程度である。本拠地で開催したポストシーズン、そして日本シリーズ、さらに巨人に移籍した小笠原道大の補償金――そうした金額が積み重なったのだ。