6戦6勝、忘れられた存在から救世主へ 「燕のサブマリン」山中、努力でつかんだ自らの『居場所』【野球コラム 新・燕軍戦記#10】
まさに破竹の勢いだ。東京ヤクルトスワローズの山中浩史が8月11日の広島戦(マツダ)でプロ初完封をマークし、これで今季は無敵の6戦6勝。昨年までプロ通算0勝の「燕のサブマリン」がエース級の働きを見せるまでになったのは、彼自身のひたむきな努力のたまものと言っていい。
2015/08/12
今季はキャンプ、シーズンとも二軍スタート
「いやぁ、手ごたえとかホントないんで。野手のみなさんが打って守ってくれたんで、僕はゼロに抑えることができて、いい仕事ができたと思います」
被安打5、与四死球1。わずか96球で広島打線を完封しながらも、ヒーローインタビューに臨んだ山中浩史は、いつもどおりの謙虚な物言いに終始した。
これで今季初登板から6戦6勝。うち5試合がクオリティ・スタート(先発投手が6回以上投げて自責点3以下に抑えた試合、以降QS)で、前回(8月2日阪神戦=甲子園)から数えて16イニング無失点と、抜群の安定感を見せている。
それにしても誰がここまでの飛躍を予想しただろうか。川島慶三、日髙亮との交換トレードで、新垣渚とともに福岡ソフトバンクから移籍してきたのは昨年7月。新転地ではすべてリリーフで9試合に登板したが、防御率6.75と結果を出すことができなかった。
九州東海大から社会人・Honda熊本を経て、2012年のドラフト6位でソフトバンクに入団。今年でまだプロ3年目とはいえ、9月には三十路になる。いわば崖っぷちで迎えた2015年シーズンはキャンプ、シーズンとも二軍からのスタートとなった。
3月14日にイースタンリーグが開幕すると、3、4月は救援専門で9試合に投げた。転機となったのは5月から先発に回ったことだ。3日の巨人戦(戸田)で7回を無失点に抑え、続く16日の北海道日本ハム戦(鎌ケ谷)でも5回無失点で今季“初勝利”。結局、5月はファームで4試合に先発して計26イニングを投げ、失点2、自責点はゼロ。防御率は圧巻の0.00である。
その頃、山中の口から意外な言葉を聞いた。
「いや、自分では先発とは思ってないです。ただ最初に投げてるだけなんで……。成本(年秀二軍チーフ投手)コーチにも『とにかく1人ずつ投げろ』って言われてるんで、その積み重ねですね。だから、中継ぎで(一軍から)呼ばれてもいいように準備はしてます」
ほどなくして、一軍で先発するチャンスが訪れる。開幕からローテーションを守りながら、直近の2試合で続けて打ち込まれていた石山泰稚に代わり、6月7日の千葉ロッテ戦(神宮)の先発を言い渡されたのだ。
だが、5日のロッテ戦が雨天中止となり、この試合に先発する予定だった小川泰弘が7日に回ると、そのあおりで山中の先発も12日の埼玉西武戦(西武プリンス)に延期される。これが一世一代の大舞台となった。