大谷との投手戦を制した岸 打たれた1球に見えた、エースの素顔【中島大輔 One~この1球をクローズアップ】
3試合連続完投負け、前回登板も5回降板で今季1勝4敗と苦しんでいるエース岸孝之が11日リーグトップの勝ち頭の大谷翔平と投げ合い、完投で47日ぶりの白星をつかんだ。先制された直後に味方が逆転し、9回もマウンドに上がった岸。今回は9回2死から中島卓也に打たれた配球をクローズアップする。
2015/08/15
ベースボールチャンネル編集部
大谷との投げ合いを制す
酷暑の西武プリンスドームで131球を投げ抜いて大谷翔平とのエース対決を完投で勝利した直後、岸孝之は思わずマウンド付近にしゃがみ込んだ。
「疲れました」
8月11日の日本ハム戦を制し、自身にとって47日ぶりの今季2勝目。過酷な環境の本拠地で試合を続けている影響か、心身ともに夏バテ気味のチームにとっても貴重な勝利だ。
1点差の試合をひとりで投げ抜いた岸は、大谷に勝利したことを聞かれると、こう答えている。
「そうですね、この暑さですから。今日はちょっとマシでしたけどね。ここでこの時期に完投できたのは、すごくよかったです」
疲労感を漂わせて試合後の囲み取材に答えていた岸だが、筆者が質問を投げかけると、鬼の形相に一変した。
聞きたかったのは、9回2死から中島卓也に打たれた配球についてだ。ストレートを6球続けた後、7球目に投じた148kmの真ん中低めのストレートをレフト前に弾き返された。
捕手の炭谷銀仁朗は、自身のリードについてこう説明する。
「1点差で、クリーンアップに回したくなかった。ツーアウトで、ほぼほぼ真っすぐが前に飛びそうな感じがしませんでした。変化球は前に飛ぶかもしれないので、真っすぐで押してこう、と。岸さんの真っすぐがよかったですからね」
捕手のサインに首を横に振らなかったのは、岸も納得して投げたのだろう。投じた意思を確認するために質問すると、一瞬で怖い表情に変わったのだ。
その怒りは、自身に向けたものだった。
「もうちょっとインコースにビシッといければ、また結果も違ったのかなと思いますけど……」
自らに言い聞かせるように話すと、ほとんど聞き取れないような声でつぶやいた。
「力みすぎですね」
ヒットを打たれる前の6球目は、この日最速の149kmが計測された。外角高めに外れたものの、球威のあるボールだった。岸は試合後、「とりあえず思い切り投げようと思って」と振り返っている。
その直後に投げたのが、力みすぎた1球だった。内角を突こうとしたボールは、わずかに余計な力が加わって真ん中に入る。それを中島に弾き返されたのだ。
この日の立ち上がりは、決して万全の状態ではなかった。球威がある一方、微妙なコントロールを欠いていた。
しかし、「何がいいのかわからないですけど、4回からちょっと良くなって。(スイスイ行けたのは)そこからですかね」