水谷瞬の「痛がらない死球」が物語る、1軍を懸けた激しい生存競争【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#220】
春季キャンプが順調に終わった。野手のなかで新庄監督が唯一明言したレギュラーは、万波中正のみだ。開幕1軍、そしてレギュラーの座をかけ、オープン戦が始まる。
2024/02/29
産経新聞社
3月も続くシビアな闘い
巨人戦で印象に残ったのは水谷の奮闘だった。巨人の投手が(ソフトバンクで同じ釜の飯を食った)高橋礼や泉圭輔だったこともあり、この日は思うところあったと思う。アピールしたのは5回無死一塁の場面、ライトフェンス直撃の二塁打(投手・ケラー)を放ったことだ。風にも助けられたが、目の覚めるような一撃だった。この日は佐々木俊輔のバッティング対応力、山瀬慎之助の座り投げ等、巨人の新戦力に目を奪われていた。が、水谷の魅力はひけを取らない。こんな面白い選手がソフトバンクで1軍未経験だったのか。現役ドラフトで獲得できてホントによかった。もう伸びしろしか感じないのだ。
メジャーばりのノーステップ打法は昨シーズンから取り組んでいるものだ。ステップする打ち方と比べて身体のブレがなく、確実性が増す。ボールを長く見て、バットは内側から出るイメージ。なのでこの日の二塁打のようにライトに大きな当たりが飛ぶ。ドライブラインで動作解析を受け、ベストスイングのイメージを追いかけている。そう、フォームこそ違え、万波中正のアプローチと酷似しているのだ。万波以上に粗削りで、まだ試行錯誤の段階だが、きっかけをつかめば中心打者に化けるポテンシャルがある。
いいなぁと思ったのは7回、泉との対決でフルカウントから腕に死球を食らい、痛そうなそぶりを見せず平然と一塁へ歩いたシーンだ。相手が旧知の泉だったこともあるだろう。が、それ以上に今は痛いのかゆいの言ってられない。今、試合に出してもらってるチャンスをフイにしたくない。水谷が全く痛がらないので日テレG+の実況席は「痛くないんでしょうか」「当たったのが筋肉のついてる場所なのでそう痛くないんじゃないですか」とやりとりしていたが、死球が痛くないわけがない。二の腕は(骨の出ているヒジ等と比べて)まだマシな方だが、それでもまともに当たればボールの縫い目の形にアザが残る。野球選手の死球の跡はくっきり「ホントにここにボールが当たりましたね」という感じだ。
その「痛がらない死球」がいかにも当落線上の水谷を象徴していた。現役ドラフトは野球人生を大きく変えるチャンスなのだ。僕は豪快な二塁打以上に、そのけんめいな姿に好感を抱いた。
キャンプが終わり、3月のオープン戦が始まる。それはファンにとっては球春近しを告げるものだが、生存競争を闘う選手らにとってはなかなかシビアなものだ。これから「1軍候補」のふるい分けが始まる。選手らにとっては稼げるか稼げないかの瀬戸際だ。
ここから心配なのはケガだなぁ。チャンスをもらって結果が出せず脱落するならあきらめもつく。下で練習して再チャレンジするだけだ。ケガで脱落するのは残念だ。例えば去年の淺間大基のようなことだ。ああ、見ている側としては、淺間も水谷も五十幡もスティーブンソンも仕事させてやりたいんだよ。ファンはプロの闘いを固唾をのんで見守るしかない。さぁ、3月、チームはいったん北海道へ戻る。ここからシビアな闘いだ。