侍J逆転の布石は“デスパイネ対策”にあり。秋吉=小林「ワンヒットOK」の真意
第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で負けなしの5連勝と快進撃を続けている侍ジャパン。14日の対キューバ代表戦で8回に登板し、無失点で切り抜けた“あの男”の活躍が、チームの勝利を後押ししたと言っても過言ではない。
2017/03/15
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デスパイネの一発を警戒
同点に追いついて沸き立つスタンドと同じ気持ちにはなれなかった。
エース・菅野智之投手(巨人)がまさかの4回4失点で降板し、2点ビハインドで迎えた5回裏のことだ。先頭の小林誠司捕手(巨人)が左翼前安打で出塁し、1番・山田哲人内野手(ヤクルト)が四球で続く。菊池涼介内野手(広島)が送って1死二、三塁の好機を迎えた。
そして、3番・青木宣親外野手(アストロズ)のセカンドゴロの間に1点、筒香嘉智外野手(DeNA)の中前適時打で同点に追いついた場面である。
青木のセカンドゴロは相手が前進守備を敷いていなかったから狙って打ったのかもしれないが、このチームが青木に求めているのはそのレベルではない。青木がタイムリーを放ち、筒香も続く。そして、中田翔内野手がダメを押す。そうすることで、キューバの息の根を止める。そんな試合に持ち込んでこそ、主導権を握れると思っていたからだ。
なぜ、同点ではいけないのか。
それはキューバの勝ち方があの男による後半の一発という“形”を持っているからだ。
第2ラウンド進出を決めた1次ラウンド最終戦のオーストラリア戦がまさにそうだった。
5回表にオーストラリアが1点を先制。継投で逃げ切りを図ってきたが、キューバは直後の5回裏2死から連続安打と四球で満塁の好機をつかむと、「あの男」、つまり、アルフレド・デスパイネ外野手(ソフトバンク)を迎えた。
そして、デスパイネはグランドスラムを見舞った。
その真逆の試合となったのが、第2ラウンドの開幕戦イスラエル対キューバだった。
この試合はイスラエルが4-1でキューバを退けた。
2点リードの8回表、イスラエルは2死をとりながらも、粘られ走者を2人おいてデスパイネを迎えた。
キューバ対オーストラリア戦と似た局面を迎えたが、ここで、イスラエルの知将・ウェインスタイン監督は、セットアッパーとしてこの回からマウンドに立っていたゴールドバーグを諦め、クローザーのゼイドを送り込んだ。
デスパイネは四球。
継投は失敗したかにみえたが、イスラエルの捕手・ラバンウエーはその狙いを明かす。
「デスパイネには、彼一人で私たちをやっつける力があることを知っていました。だから、今日は歩かせる決断をしました」
イスラエルは次打者を抑えてピンチを切り抜け、勝利へつなげたのである。
勝負が後半にいけばいくほど、デスパイネを迎える怖さがついて回る。
デスパイネの打席での集中力、デスパイネに回して何とか勝利をもぎ取っていこうとするキューバチームの心が一つだということを知っていれば、どう戦うべきかは明らかだった。
キューバを倒すには、少なくとも4点差以上のリードを保って、終盤のデスパイネに対峙する。あるいは、イスラエルのように、デスパイネを超警戒しながら抑えるしかないのだ。
侍Jは前者が叶わなかった。
当然、キューバが侍ジャパンに対し、捨て身で立ち向かってきたからである。
キューバのマルティ監督はイスラエル戦からオーダーを変えている。デスパイネのあとにグラシアル内野手を入れ、それまでの試合で当たりの出なかった5番のサーベドラ内野手を6番に降格。7番には前回の試合で途中出場したアラルコン捕手、8番にデルガド内野手、9番にメサ外野手を入れてきた。
これらが功を奏して2回にグラシアルの2点本塁打、4回表にはメサ、6回表にはアラルコンがタイムリー。マルティ監督の起用は当たっていた。
投手起用も捨て身で挑んできた。
先発のバノス投手は5回途中まで投げて2番手は左腕のイエラ投手を投入。
これは侍Jベンチも分かっていただろうが、2番手のイエラを5回のピンチでマウンドに上げてきたのは球数制限があったことに加えて、侍Jの3、4番が左打者であるからだ。