虎スカウト絶賛の吉川尚輝(中京学院大)。岐阜県大学リーグ出身、カープ菊池・野間に続けるか
この春、評価を高めつつあるのが中京学院大の遊撃手・吉川尚輝選手だ。走・攻・守の3拍子がそろったアベレージヒッターは、どのような成長曲線を描くのだろうか。
2016/05/06
プレーの“軽さ”は伸びしろの裏返し
一方で、今春リーグ戦では気がかりなシーンもあった。エラーの多さだ。4月3日の岐阜聖徳学園大戦では、7回裏に三遊間のゴロを捕球ミス。同9日の中部学院大戦では、7回表、9回表にそれぞれ悪送球を犯した。吉川本人によると、3日の捕球ミスは「いつもなら逆シングルで捕りにいくところだが、早く打球(の線上)に入れたので正面でいったらエラーしてしまった。少し迷った」、9日の送球ミスは「試合前のノックから球が浮いていた」と振り返るが、言わば、彼にある課題だ。
もちろん、遊撃手には数えきれないほどの難しい打球が飛んでくるから、そのすべてを完璧にさばくのはどんな名手でも人間である以上不可能だ。ただ、吉川の場合は『プレーの軽さ』としてたびたび指摘されているのだ。9日の試合を見たあるプロ球団スカウトは、当然吉川の能力は認めながらも「プロのショートが1試合で2つも送球エラーをすることはない」と手厳しかった。別のプロ球団スカウトも「集中力があるときとないときの差があって、軽いプレーをするときがある。流れるプレーというより、良くも悪くも流すのがうまい」と見る。
しかし、エラーのすべてが本人の『軽さ』に由来するものでもない。近藤監督は「たしかにエラーもありますが、普通の野手なら追いつけずにヒットになる打球にも、吉川は追いついてしまい、その状況からアウトにしようとした結果、プレーが乱れてエラーと判定されてしまうケースもある。打球に対するスタートは申し分ないし、そこまで軽くはないと思います」と、エラーよりもむしろ吉川の長所を強調する。
また、将来プロに入ったとき、その環境が吉川をさらにうまく、かつ確実性の高いプレーヤーに変えてくれる可能性だって十分だ。
熊野スカウトは「吉川のプレーに周囲がついていけない場面がある。たとえば併殺の際、吉川が二塁ベースに入ってもまだ送球がこなかったり、逆に吉川が投げようとしてもまだベースカバーがいなかったり。だからこそ、プロで鍛えればどうなるか。菊池涼介も同じような感じでした。できる人が周囲に揃うプロの世界で自分もうまくなり、やったことのないプレーもできるようになっていく」と話す。
吉川以外の中京学院大ナインには、甲子園出場選手や強豪私学出身者も多く、けっして技術的に劣っているわけではい。ただ、吉川の次元の高さは玄人をも唸らせるほどであり、より高いレベルでこそ、無意識に集中力が増し、まだ表に出していない部分(伸びしろ)が引き出されていくのではないか。
吉川にとって、同じ岐阜県学生リーグで2年先輩の野間とは大学は違えど交流もあったという。「僕が2年生のとき、4年生だった野間さんに『今度一緒に練習しよう』と誘ってもらい、約束していたんです。でも野間さんがプロ入りなどで忙しくなり、結局実現しなかったんですが…」(吉川)。
一流は一流を知る。そんなことを感じさせる。吉川が最高峰のステージに進んでどう進化するか。中京学院大の先輩・菊池を超える日も来るのではないかと今から楽しみである。
近づく全国舞台
現在、中京学院大は岐阜県学生リーグで首位を走っている。このまま岐阜県で優勝し、その後静岡県、三重県の優勝校との代表決定戦を制することができれば大学選手権に出場できる。吉川はこれまで、全国大会を経験していない。昨年は春秋ともに代表決定戦まで進んだが、惜しくも敗れた。吉川は「もったいなかった。この春は岐阜県で1位になり、東海大会(代表決定戦)でリベンジしたい」と強い思いでリーグ戦に臨んでいる。
アドレナリンが出る全国舞台でどんなプレーをするか、それもまた楽しみである。自身のヒットが勝利に直結している好循環を続け、初の全国舞台に立ってほしいと願っている。