「新球」と「上から目線」。成瀬善久が歩み始めた復権ロード【新・燕軍戦記#24】
東京ヤクルトスワローズにとって初のFA獲得投手として大きな期待をかけられながら、移籍1年目の昨シーズンは不本意な成績に終わった成瀬善久。かつてはパリーグを代表する左腕といわれたその成瀬が今、復権に向けて歩み始めた。
2016/05/24
「いい時は『打てるもんなら打ってみろ』と相手を見下ろしていた」
成瀬が新たに手に入れたのがワンシームなら、あらためて取り戻したものもある。それが「上から目線」だ。
「去年は『もっといいところに投げなきゃ』とか『もっと厳しくいかなきゃ』とか、いろいろ考えすぎたと思います。(ロッテ時代の)いい時はもっと相手を見下ろしていたというか『上から目線』でやってたのかなと感じますし、もともとはそういうふうに『攻めてた』のかなと思います。『打てるもんなら打ってみろ』みたいな」
その背景にあるのは「ストレートの質」。伊藤コーチが言う。
「球種が1つ増えたのも大きいですけど、去年よりもストレートが安定してきたっていうのもありますね。スピード自体は出てないですけど、去年は真っすぐがぼやけていたのが、回転の良いボールになってきました」
それでも4月19日の阪神戦(甲子園)、同26日の広島戦(神宮)では、いずれも5回持たずにKOされ、再調整を命じられた。ファームでは5月3日の巨人戦(ジャイアンツ球場)で、ロッテでも一緒にプレーした田中雅彦とバッテリーを組み、原点を見つめ直した。
「ちょっとワンシームにこだわりすぎていたのかもしれないです。(田中雅は)ワンシーム(を投げる自分)を知らないので、元の姿で投げられたのが良かったですね。いい時の自分の姿を知ってくれているし、こういうのも必要なのかなと思いました」
一軍復帰登板となった巨人戦では菅野智之と投げ合い、8回まで村田修一のソロ本塁打による1点のみに抑える移籍後最高のピッチング。この試合は勝利に結びつかなかったものの、続くDeNA戦では5回までに3点を失いながらもその裏に味方が同点に追いつくと、6、7回は連続で3者凡退に抑え、チームの勝利を呼び込んだ。
この試合でも10個のゴロで取る一方で(うち1つは失策)、奪三振も今季最多の5つ。「(三振を)取りたいところで取れたので、そこは良かった」と振り返った。
しかし──。
「ここ2試合の内容はすごく良いと思ってますけど、1年間やって初めて評価されると思うんでね。だから僕らもそうですし、野手も『成瀬なら』っていう感じにはまだなってないと思うんですよね。悪い時はダメっていうんではなかなか信頼も得られないし、みんなから信頼されるようになるには年間を通して安定していないと」(伊藤コーチ)
新たにワンシームを習得し、ロッテ時代の「上から目線」を取り戻したことで、復権への道を歩み始めた成瀬だが、その道程はまだまだ長い。通算1500投球回まであと「1」、通算100勝まであと「5」と、節目の記録も近づいているが、まず大事なのは「続けること」だ。