元巨人・クロマティが率いた流浪のサムライ球団――「荒れ狂う指揮官、押し黙る選手」【『サムライ・ベアーズ』の戦い#1】
皆さんは、かつて巨人で活躍したクロマティ氏が、アメリカの独立リーグで日本人だけのチームの指揮官として戦っていたことをご存じだろうか。そのチームは『ジャパン・サムライ・ベアーズ』と名づけられた。
2017/01/18
阿佐智
無様なプレーの連発に荒れ狂う指揮官
あれはもう10年以上前のことになる。
「Fuck!,Shit!」
薄暗いベンチで罵声を浴びせるユニフォーム姿の男。その罵声は、フィールドの選手に向けられていた。タテの関係の弱いアメリカではあまり目にすることのない風景。それもその場は、まがりなりにもプロ野球の試合の場だった。罵声を浴びせられたユニフォーム姿は、もともと大きくもないがたいをますます小さくかがめてベンチに戻る。その多くが「タテ」の関係になじめず海を渡ってきた彼らは、その場では受けるはずはないと思っていた仕打ちにますます萎縮し、ミスを連発する。
長い試合を終えて乗り込むバスでは、連日の敗戦に荒れ狂う指揮官を前に選手たちはただただ押し黙っているだけだった。
ある意味それも仕方がなかった。試合が始まるや否や、ベンチで荒れ狂う姿は、おおよそスキッパー(船長)とも呼ばれるプロ野球の指揮官のそれとはかけ離れたものであったが、フィールドでプレーする者の多くもまた、「プロ」と名乗るにはあまりに無様なプレーを連発していたのだから。
このチームのトレーナーだった友広隆行はこう回想する。
「確かにひどかったですね。初めて見ましたよ。外野フライを本当にバンザイするなんて」
当人は野球をプレーしたことはなかったが、メジャーリーグでも仕事をした経験のある彼の目にも、一緒にいる若い選手たちのプレーが「プロ未満」であることは疑いようがなかった。それもそのはず、彼らはファームチームを抱えるプロチームが12もあり、そのスカウトたちが全国を年中くまなく歩いている日本にあってプロ球団から見向きもされなかった者たちだったのだから。
そしてそんな彼らを率いた指揮官が、メジャーリーグでポジションプレーヤーとして活躍しただけでなく、現役バリバリのまま来日し、史上最高の助っ人として名を馳せた名選手だった。